2024年11月25日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年10月22日

 また、プーチンは「空域からの攻撃手段の大量の発射あるいはそれらが国境を越えたことについての信頼できる情報」が核使用の引き金となること、自国のみならずベラルーシへの攻撃についても核攻撃の対象となることにも言及している。これらについても、何らかの形で核ドクトリンに反映されることが想定される。

四つの気づき

 幾つか気づきの点がある。第一に、核ドクトリンの検討としては、極めて異例な状況となっていることである。通常、核ドクトリンの検討は、自国の安全保障をどのように確保するのかの観点から行われる。ところが、今のロシアの場合には、どうすれば目下の戦争を有利に遂行できるかの観点から核ドクトリンの修正が検討されている。

 ロシアとしては、西側の供与する長距離ミサイルのロシア領内への使用を何としても阻止したいのであろう。こうした戦術上の考慮から核ドクトリンを修正するというのは極めて異例である。

 第二に、今回の核ドクトリンの修正には、ロシアの「エスカレーション阻止」戦略の性格が良く表れている。「エスカレーション抑止」戦略とは、自らが核使用の構えをとることで、相手方がそれまで以上の軍事的行動をとることを断念させるという考え方である。

 第三に、このような状況にはロシアとしての「弱み」が見てとれる。核兵器を必要とし、核ドクトリンを拡大しようとするのは、通常兵器だけでは不利な展開となると考える国である。ロシアは、現在、核をちらつかせなければ、欧米諸国の供与する長距離ミサイルによって戦局に負の影響が出かねないことを懸念している。

 第四に、核ドクトリンを拡大したからといって、現実に核を使用できる状況かは別問題である。例えば、①軍事的合理性、②自国にとっての負の影響、③政治的・外交的損失、④相手の対応措置等が「実際上の問題」として考慮されなければ、核の使用は有利な選択肢とはならない。それらのハードルは、核ドクトリンを修正したからといって変わるものではない。

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