2024年11月21日(木)

経済の常識 VS 政策の非常識

2024年10月24日

韓国と日本の賃金引き上げの実験

 韓国では17年の文在寅(ムン・ジェイン)政権の樹立とともに最低賃金を17.5%引き上げた。それ以前の最低賃金引き上げのトレンドが年7%程度だったから倍以上の引上げ率だ。

 これで韓国の失業率が上昇すると予想されたが、3.5%程度の失業率はわずかに上がっただけだった。その後5%近くまで上がったものの、それはコロナショックのせいで最賃の引き上げで上がった訳ではない。

 17.5%の最低賃金引き上げのショックが小さいのは、韓国のトレンドの物価上昇率が2%で実質GDPの成長率が3%だからだ。最賃の引き上げも、あわせて5%までは問題がない。企業は、平均では3%の生産性上昇率と2%の自社製品の値上がりを享受しているからだ。最賃のトレンドの7%の引上げとは2%分の努力をしなさいと言うことだ。17.5%でも3年たてば企業にとっての最賃引き上げのショックはほとんど消える。

 ところが、日本の物価は1%、実質GDPは1%の上昇にすぎないから、7%の引き上げは5%分の企業努力が必要と言うことだ。しかも、一回だけではなく、毎年7%上げていく。これはかなりつらいのではないか。

 日本でも賃金の無理やりの引き上げを試みたことがある。90年代の初期、週44時間労働から40時間労働へと労働時間を9%低下させた。これは、意図した訳ではないが、時給を9%上げたのと同じである。結果は、大停滞の始まりである。

 大停滞がこれだけで起きた訳ではないが、賃金上昇が雇用を削減したことは間違いない(原田泰『日本の「大停滞」が終わる日』第8章、日本評論社、2003年、参照)。これは最賃の引き上げではなくて、正規労働者の時給を上げた訳だが、賃金の上昇が雇用を削減した例である。

日本の賃金はどう変わってきたのか

 図1は、90年代からの雇用、名目賃金、実質賃金の推移を見たものである。縦棒が大胆な金融緩和の開始時期を表している。

 図で緩和以来、雇用は増加しているが、名目賃金、実質賃金ともに増えていない。ただし、実質賃金が14年に大きく低下しているのは消費税増税のゆえである。このグラフが、アベノミクスで雇用は増えたが賃金は上がっていないと言われるゆえんを示している。

 しかし、賃金は時給で見るべきである。最賃も時給で決められている。倍の時間働いている労働者に賃金を倍払っても企業にとって負担にはならないからだ。


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