年収の壁
第2には、年収の壁である。106万円、または130万円を超えると社会保険料を払わなければならなくなり、家計の手取り収入が減ってしまうという問題だ。
厚生労働省はすべての労働者から何とか保険料を取ろうとしているが、保険制度である限り、壁は免れない。これを解消するためには、保険料ではなくて税で賄う社会保障制度を作るしかない。
税なら、50万円稼いだ人は5万円、100万円稼いだ人は10万円、150万円稼いだ人は15万円の税金を取るという制度が可能で、年収が増えたら増えた分の例えば10%を取るだけだから、坂にはなっても壁にはならない。社会保険料では、106万円から1円でも増えたら20万近い保険料がいきなり課せられる。これでは年収の壁を超えて働こうという気になれない。
最賃を引き上げると就労調整する人が増えて、かえって労働供給が減って人手不足が激化する。労働供給が減るのだから、もちろん国内総生産(GDP)は増えない。税収も増えない。
根本的な解決策は社会保障を、社会保険から税による制度に転換することだが、急にはできない。とりあえずは、年収の壁を200万円以上に引き上げることだ。筆者は、そうしておいて10年くらいかけて税による社会保障制度に移行すれば良いと思うのだが、根本的な解決策を取ろうという人はいないようだ(根本的解決策については田中秀明『「新しい国民皆保険」構想』慶應義塾大学出版会、2023年が参考になる)。
最低賃金は名目値
第3は、最賃は名目値だから、これで実質賃金が上がるかどうか分からないということだ。ただし、最賃を上げすぎた結果、物価も上がれば最賃を上げて雇用が減るということにはならない。なぜなら、企業にとって大事なのは、実質賃金で名目賃金ではないからだ。
すべての物価が上がれば企業の生産物の物価も上がって労働コストの負担も減る。最賃を上げれば物価も上がって、生産性上昇率以上に賃金が上がっても大丈夫になるという訳だ。ただし、最賃を上げて物価が上がるかどうかは分からない。
最賃を上げたらどうなるかを、韓国と日本の経験から考えたい。