今後、中国軍の侵入は止まるのか
今後、どうなるだろうか。印中国境における中国軍によるインド側への侵入事件数をみると、11年には213件だったものが、19年は663件に増え、確実に増加傾向にある。中国側は、印中国境で629もの村を建設しており、中国軍が展開するための軍事拠点になっているし、中国軍が展開するための道路や橋、トンネル、空港などの建設も急ピッチで進んでいる。だから、今回の合意で、もし仮に、一時的に中国軍が行動を自制したようにみえたとしても、長期的には、中国軍のインド側への侵入が止まるとは思えない情勢だ。
だから、インド側の対応もまた、中国への対抗策を強めていくことが予想される。前述の、インド洋をめぐるQUAD各国の海軍協力は、空軍協力へ拡大した。先月行われたQUAD首脳会談の共同声明では、「我々はまた、インド太平洋地域全域における自然災害への文民による対応をより迅速かつ効率的に支援するため、我々の国々の間で空輸能力を共有し、我々の集合的な物流の強みを効果的に活用することを目指すべく、本日、インド太平洋ロジスティクス・ネットワークのパイロット・プロジェクトを立ち上げることを発表する」という文言がある。災害対応を全面にだしてはいるが、QUAD各国が軍の部隊を迅速に空輸する協力である。まさに、海洋協力から空の協力へと、QUADは拡大しつつあることを示すものだ。
こうしてみると、中国に対するQUAD各国の防衛協力は、ゆっくりとではあるが、着実に進みつつある。まさにインドはゾウ、といってもいいだろう。ゾウを一生懸命に押しても、大きすぎて動かすことは難しい。しかし、長期的な視点に立てば、ゆっくりと、着実に、動いている。
中国がインドを刺激し続ける限り、ゾウは動き続けるだろう。それは、日本にとって、インドとの協力が、大事になっていくことを示唆している。