2024年11月16日(土)

デジタル時代の経営・安全保障学

2024年11月16日

Twitterを買収しトランプを復活させる?

 加えて、これまで問題のあるユーザーやツイートを凍結処分などにしてきたTwitterを買収して「表現の自由」を取り戻すと主張するマスク氏は、22年米中間選挙、そして24年米大統領選をも左右する可能性もある。Twitterがマスク氏によって買収されたら、Twitterから永久追放されて「声」を失ったドナルド・トランプ前大統領を復活させることになるかもしれないからだ。

 いまだに共和党保守層を中心にトランプ待望論が存在するが、Twitter再開でトランプ前大統領が息を吹き返したら、米国の政治に大きな影響を与えることになるだろう。それゆえに、マスク氏が危険な力を手に入れようとしているとの警戒する向きもある。

 ちなみに、Twitter買収そのものについて言えば、Twitter社とマスク氏側はすでに買収については合意しており、現在は条件を詰めている段階だ。今、マスク氏が買収を「や〜めた」と反故にすれば、4月に両サイドが合意した10億ドルの違約金がマスク氏に対して発生することになる。そう考えると、マスク氏が簡単に交渉を投げ出すとは考えにくい。

 とにかく、こうした言動から世界の衆目を集めてきたマスク氏だが、ご存知の通り、宇宙企業スペースXや電気自動車大手テスラでCEOを務めている。いずれも頻繁にニュースに登場するような話題に事欠かない企業である。こうした企業を経営しながら次はTwitterを買収――。マスク氏は、いったい何を目論んでいるのだろうか。

スペースX開発の背景にある「正義」

 基本的に、マスク氏はビジョンを体現する力のある経営者だと評価されている。スペースXもテスラも、幾度となく失敗を重ね、資金が底を突きかける窮状に追い込まれながらも、なんとか逆境を跳ね返して有人宇宙飛行も電気自動車の量産も成功させてきた。その原動力は、マスク氏のビジョン、すなわち、彼の「正義」にある。

 スペースXの「ビジネス」の狙いは、宇宙船やその打ち上げに必要なロケットの開発がこれからの世界に欠かせない技術であるとマスク氏が考えているところにある。実際、同社はすでにその打ち上げ実績を積み上げビジネスとして拡大させており、軍官民で通信や位置情報、画像分析などがますます求められていくだろう。

 この背景にあるマスク氏の「正義」――。それは、スペースXが打ち上げる宇宙船により、地球上で生活できなくなった人類が宇宙(火星)に出ていって暮らすという壮大なビジョンである。

 加えて、ロシアのウクライナ侵攻でも話題になったが、スペースXでは衛星高速ブロードバンドサービスのスターリンクも開発している。これは、現在、光ファイバーケーブルを敷くことで接続されているインターネットを、衛星から接続できるようにするというシステムだ。どんどん衛星を打ち上げており、米軍や米連邦通信委員会からも投資を受けている。

 現在、32カ国で利用が可能になっており、日本でも近々、試験的な利用が始まる予定だ。ウクライナでは、ロシア軍によって通信網が破壊されることを恐れたウクライナ側がマスク氏にスターリンクを提供するよう要請し、スターリンク側は米軍の手助けで実際にシステムを提供してきた。

 このスターリンクの「ビジネス」の背景にも、マスク氏の「正義」がある。マスク氏はスターリンクを世界に普及させれば、現在、国連が基本的人権だと決議している「インターネットのアクセス」も満たすことができると考えている。

 いま世界人口のうち約40%はインターネットに接続できる環境にいない。例えばマスク氏は、22年2月に南太平洋の島国トンガにスターリンクを寄贈している。23年にはインフラ大整備されていないアフリカなどでもサービスの提供を開始する予定だ。どこでもインターネットに接続できるようにする――。南アフリカ出身でアフリカの状況がよくわかっているマスク氏の「正義」がそこにはある。


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