2024年7月16日(火)

科学で斬るスポーツ

2014年2月7日

 このトリプルアクセルを、12歳で成功したのが浅田。天才と呼ばれたが、その後、体の成長に伴ってジャンプは難しくなる。12歳の時141㎝だった身長は、現在は163㎝もある。

アクセル成功には、滞空時間0.67秒

 浅田に科学的な視点から助言を行う中京大学スポーツ科学部の湯浅景元教授は「身長が大きくなればなるほど回転しにくくなる。身長が4㎝伸びれば、同じ力で飛んでいても14%も回転速度が遅くなる」と説明する。

 湯浅教授によれば、浅田がトリプルアクセルを成功するのに必要な滞空時間は0.67秒。これ以下だと失敗することが多くなるが、浅田はバンクーバー五輪の時にジャンプの高さを確保しようと、腕を前後に振りながら、ひざを曲げ、大きく沈み込んで、飛ぼうとしていた。しかし、回転が十分でなかったことが多かった。助走速度が遅かったからだ。深く沈み込むこの動作は、滑らかさを失い、出来栄え点に影響しただけでなく、「浅田のスタミナ、体力を奪っていった」と湯浅教授は指摘する。

 湯浅教授がバンクーバー五輪における浅田と金の重心の変化を分析した。上下動が激しい浅田に対し、金はほとんど上下動のない、無駄な力を入れない滑りだった。浅田が演技後半でジャンプのミスが相次いだのも、こうしたスタミナ切れとは無縁でないだろう。

 「同じ滞空時間でも、助走速度を高めて、回転速度を速くすれば、ぎりぎりで飛んでいた3回転半が、余裕をもって飛べる」。バンクーバーの反省を胸に、この4年間、浅田と佐藤コーチが目指してきたジャンプの形だ。

 深く沈み込まずに足で蹴ろうと、体の中心線(体幹)の筋肉の強化、助走速度を上げるためのスケーティング技術の改革に取り組んだ。空中姿勢も垂直に近づきジャンプの成功率は高まった。助走速度もバンクーバー五輪時の秒速6.45mから6.54m前後に上昇した。

 浅田自身も「これがトリプルアクセルなのかと思えるほど楽に飛べるようになった」と手ごたえを感じている。

 「ジャンプも、走り高跳び型から走り幅跳び型に変わってきた。つまりジャンプの軌跡が、急峻な山から滑らかな山に変わっている。上下動もなくなり、ジャンプは進化している」と湯浅教授は強調する。昨年暮れ、パーソナルベスト207・59点を出したNHK杯、グランプリファイナルの優勝などの今シーズンの安定ぶりは、こうした技術的な成長が、大きい。


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