2024年4月19日(金)

科学で斬るスポーツ

2014年2月7日

 表からわかる通り、浅田の技術点は低い。つまり、技が未熟だったと言える。金妍児の得点は計228.56点。これに対する浅田の得点は205.50点。23.06点に及んだ点差のうち、フリーは、18.34点も開いた。その理由は、技術点の伸び悩み。13.62点の差だ。

 金妍児の技術点の内訳をみると、演技全体の基礎点の評価は60.90点で、出来栄え点(GOE)は17.40点。一方、浅田の基礎点は55.86点、出来栄え点は、なんと8.82点と低迷した。特に浅田が最大の武器とするトリプルアクセルを含むジャンプが顕著だった。図6を見て欲しい。

 ジャンプにおける出来栄え点の差が、勝敗の決定的な要素だったことがわかる。出来栄え点は、ジャンプの高さ、空中姿勢、滑らかさなどが重視されるが、実は、浅田はコーチの目が行き届かない中で、自己流の滑りしかできず、技術を磨けなかったのだ。その裏には母の病があったことが、のちにわかる。

ジャンプの大改革 助走速度を上げる

 浅田の再起をかけた戦いの始まりは、佐藤コーチへの依頼だった。名選手で、名伯楽として知られる佐藤は、スケーティング技術を根本から見直し、助走速度を上げたジャンプの大改革に乗り出した。世界トップになった選手を根本から指導するのは難しい。なぜなら、彼らは言葉で表現できないような感覚をすでに身に着け、それを大事にしているからだ。佐藤と浅田は、それを崩すことから始めなくてはならなかった。

 速度を上げるには、氷をしっかりとらえ、ブランコの原理の応用など加速の技術などを的確に体で覚えていかなくてはならない。

 2010年のシーズンは、ほとんどトリプルアクセルは成功せず、助走速度を上げるスケーティング技術の習得に集中した。なぜ、速度が必要なのか。

 アクセルは、ノルウェーのアクセル・パウルゼンが1882年に考案したジャンプ。6つのジャンプのうち唯一、前向きに踏み切って後ろ向きに着氷する(図7)。正面から飛ぶため怖さなどがあり、難度は極めて高い。長い滞空時間、高さ、早い回転速度が求められるからだ。そのため女子で成功する人は多くない。


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