新聞は民意を反映しているのか?
ここで考えるべきは、新聞各社が掲げる「正しさ」が果たして実際の民意や事実に即しているのかという問題だ。たとえば22年8月24日付けで読売新聞が報じた世論調査(全国の有権者3000人を対象とした郵送方式。回答率69%)によれば、
原発再稼働に「賛成」が58%、「反対」が39%となり、一昨年の時点でさえ原発再稼働に賛成する民意は多数を占めていた。ところが同じ時期(同年8月25~26日)、岸田文雄首相(当時)が首相官邸で開いた「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」(議長・首相)において、次世代型原発の開発・建設や原発の運転期間延長について「年末に具体的な結論を出せるよう検討を加速してほしい」と指示したことに対する新聞各紙の論調は、以下のように反対が圧倒的な多数派であった。
【反対】
・『電力「危機」あおり政治決断、一気に原発回帰 福島事故の教訓どこへ/考え直すべきだ(朝日新聞)』
・『福島の反省を忘れたのか(毎日新聞)』
・『国民に一層の危険 許されない(しんぶん赤旗)』
・『唐突な政策転換、被災者らに十分な説明なく(東京新聞)』
・『反省なき回帰 認められぬ(京都新聞)』
・『福島事故の教訓どこに(北海道新聞)』
・『議論の形跡なき方針転換(西日本新聞)』
・『唐突な政府方針に違和感(新潟日報)』
・『立地地域、国策不信は消えぬ(河北新報)』
・『福島県の教訓忘れるな(福島民報)』
・『唐突な表明に疑問募る(中国新聞)』
・『新増設は認められない(信濃毎日新聞)』
・『事故の教訓を忘れたのか(神戸新聞)』
・『乱暴な方針転換だ(高知新聞)』
・『不信感は置き去りだ(南日本新聞)』
・『なし崩しは許されない(沖縄タイムス)』
【賛成】
・『方針の大転換を歓迎する(産経新聞)』
・『安全重視で着実に進めよ(日経新聞)』
・『脱炭素・エネ安保、両立に期待(日刊工業新聞)』
今回の女川原発再稼働においても、事故を経験した福島県民や地元紙ではない「東京新聞」などが強硬に反対や不安を訴えた。それらを殊更に強調することで、あたかも大多数の民意が「反対」「不安」であるかのような印象を読者に与えようとしているのではないか。その「正しさ」は結局何が担保し、いかなる影響をもたらすのか。
マスメディアが喚起した「不安」
少なくとも近年、原発を巡る新聞業界の主流が民意から乖離していた実態は明らかだ。それはときに民意のみならず、昨年大きな社会問題になった福島第一原発の多核種除去設備(ALPS)処理水問題のように「客観的事実」にさえ及ぶことさえあった。
少なからぬ新聞が──特に上記「反対」を訴えた各紙を中心に、処理水を「汚染水が海洋放出される」かのような人々の誤認固着や怒りを誘う記事を出した。その一方で、不安を払拭させる正確な情報は積極的に伝えようとはしなかった。