これからの世界の安全保障環境をもっともよく分析しているのは、イアン・ブレマーの「Gゼロ」だろう。中国には国際秩序を維持しようという意思はない。周辺国の内政や領土への干渉を繰り返し、力を誇示している。米国がこのままリーダーシップを失えば、世界はリーダー不在の時代になる。アジアや中東では地政学的リスクが拡大するだろう。
国際政治の主体は国家である。複雑な国際環境に面して、国民を安全と幸福に導き、平和を享受できるかどうかはひとえに指導者の資質と能力にかかっている。
指導者のリーダーシップという問題に、この20年間、日本は苦労し続けてきたが、安倍総理は経済政策にしても外交にしても大変よくリーダーシップを発揮していると思う。
─憲法改正をどう考えますか。
私は、これまでも憲法9条は改正すべきだとはっきり言ってきた。
国際政治では、それぞれの国家に対して強制力を行使できる法執行の主体は存在しない。国防を委ねることができる主体が存在しない限り、政策の手段としての武力の必要性を排除することは考えられない。戦争が国際政治における現実にほかならないからこそ、その現実を冷静に見つめながら、戦争に訴えることなく秩序を保ち、国益を増進する方法を考えるのが現実的見解だ。
日本は、憲法改正という基本的な問題を解決しなければ、どのような問題に対しても国の態度をはっきりさせることができない。
指導者は孤独に耐えよ
─指導者がリーダーシップを発揮するために何が必要でしょうか。
信仰です。本物の指導者は常に孤独だ。国家のために尽くしていても、反対勢力やメディアから批判される。孤独に耐えるには、強い信仰が必要だ。それが、あらゆる困難を乗り越える原動力になる。
最近の日本には、国民や国家の目標をどこに置くかについてきちんと考えを持った指導者がいなかった。安倍総理は違う。彼には彼なりの信仰があるように私には思える。
私の場合は、キリスト教という信仰があった。私はもともと農業経済の学者でした。40代で奨学金を得て、米コーネル大学に留学し、そこで書いた博士論文が評判になった。当時、台湾では土地改革をめぐって農業問題が深刻になっており、行政院副院長(日本の副首相にあたる)を務めていた、蒋介石の息子、蒋経国に呼ばれ、自分の考えを説明する機会があった。そして、蒋経国が行政院長(首相相当)に就いたとき、政務委員(国務大臣相当)として入閣することになった。48歳の時です。