2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年1月23日

 トランプが或るNATO加盟国が攻撃されても防衛しないことに思いを巡らす時、彼の懐疑的な態度は、米国民が危機に際してどのように行動するかをより良く物語る。結局、ウクライナの戦争を通じて、米国の政治において二つの立場がコンセンサスを享受して来た。アジアにおける防衛の必要性が欧州におけるそれに優先する、ロシアとの直接の戦争があってはならない、という二つの立場である。

 欧州の指導者達がトランプとの宥和を図ることに固執するなら、彼等は割に合わない勝利を得ることになろう。彼等は軍備支出を増やすが、米国製兵器を買い、戦闘能力、マンパワー、リーダーシップを米国に依存し続ける。それは悪い取引である。

 トランプに対する耐性ではなく米国に対する耐性のある欧州防衛に取り組む方が良い。欧州駐留の米軍の多くを置き換え、高強度戦争を戦う能力を開発する計画をもってトランプ政権に当たるべきである。

 見返りに、トランプはNATOにとどまり、次の10年間に責任ある安全保障の移行を可能にすべきである。欧州が自身の安全を確保することをトランプ政権が本当に望むなら、欧州の防衛産業を活性化する欧州の努力を支持すべきである。

 ウクライナ国民は休戦交渉の問題に当面している。彼等のために今戦っていない過度の負担を背負う超大国が、この先彼等のために戦うことはありそうにない。ロシアはそこを見逃さない。ウクライナの最善の賭けは、その強力な防衛体制を強化し続け、ロシアが再び侵攻すれば西側のパートナーが支援を送るとの保証を得ることである。

 米国は何十年もの間、欧州の安全を本当に保証して来た訳ではない。次に何が起ころうと、欧州の防衛は欧州人自身にかかっている。その現実を受け入れて方向付けるのか、それとも最悪の瞬間に正体が露呈するまで蜃気楼を追いかけ続けるのか、その選択である。

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NATOは蜃気楼なのか?

 米国の来るべき政権がトランプ政権であろうとなかろうと、欧州諸国は米国への過度の依存を止め自主的に自国と欧州の安全を守る努力をなすべきであり、そのためにより大きな負担をなす必要があるとの論旨には賛成である。

 しかし、その主要な論拠は冷戦後のNATOの正体は蜃気楼であり、それを追い求めることは愚だというにある。蜃気楼である所以は、この論説によれば、米国は欧州の安全の保証に真にコミットはしていないからである。


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