2025年12月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年1月23日

 ソ連の崩壊後に脅威認識が大幅に低下し、これに伴い、NATOの存在意義を巡って大西洋を挟んで双方で議論が行われたことは事実であるが、この論説が冷戦後のNATOについて書いていることは極端に過ぎる。NATOの拡大による新規加盟国の防衛は加盟自体だけで事足れりとワシントンは考えた、あるいは米国議会上院はNATO条約5条の集団防衛の重みを顧慮することなく新規加盟を承認した、との観察の根拠がどこにあるのか不明である。

 欧州自身の防衛努力を強化することは当然としても、ロシアの脅威が復活した今、欧州にとって今後もNATOによる集団防衛の仕組みを維持し抑止を強化していく以外の選択はない。抑止はそれが成功裡に機能していればいるほど見えにくいが、冷戦期を通じて、NATOはその抑止の機能により、平和を維持して来た。

NATOを見限るには早過ぎる

 もとより、米国がNATOを離脱することがあれば、NATOはそれこそ蜃気楼と化すに相違ない。この論説は米国がこの先欧州の防衛体制の強化を見届けた上で、いずれ10年位後にはNATOを離脱すべきことを示唆しているように読める。そのような事態は単に欧州だけでなく、世界的な安全保障の環境に激しい変動をもたらすであろう。

 米国の離脱は何としても防がれねばならない。「米国に対する耐性のある欧州防衛」などという勇ましい目標は10年後でも達成し得まい。

 NATO内部における負担と能力の格差の問題は今に始まったことではないが、この問題に真剣に取り組むことを通じて解決を探ることが出来るはずである。欧州ではその緊急の必要性に対する認識が深まっている。

 この論説が指摘するように、米国内世論の傾きはNATOにとって逆風に違いないが、23年11月に議会は議会の承認を得ることなく米国がNATOを脱退することを禁ずる法案を超党派の賛成で可決したということもある。NATOを見限るには早過ぎる。

1918⇌20XX 歴史は繰り返す▶アマゾン楽天ブックスhonto
Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る