バスの席取り合戦で大喧嘩、やったもの勝ちのルールなきインド
マイソール市内から観光名所“チャンムーディの丘”に路線バスで行った時のこと。丘の上からマイソール市内が見渡せて丘の上の寺院は由緒ある古寺である。市内のバスターミナルから片道約40分、バスは超満員で往路は座れなかった。
問題は帰路であった。丘の上の広場に路線バスが到着するがバスが停止する前から人々がバスに群がり騒然としていた。バスは広場の入口で乗客を全員降ろしてからバス乗り場に向かうのであるが、バス乗り場となるべき停車位置が運転手により全く異なり人々は広場を右往左往している。
とても乗れそうにないので数台バスを見送ってから、次のバスが来たので停車しそうな場所をめがけてダッシュ。停車する前から十数人の男たちが小走りにバスに近寄り開いている窓から帽子やナップサックを投げ込んで座席を確保しようとする。バスが停止して運よく前部乗降扉の近くに並んだ。後部乗降扉を誰かがこじ開けてどっと乗客が乗り込んでゆく。やっと前部乗降扉が開くと押し合いへし合いで座席めがけて殺到する。必死で手を伸ばして荷物を座席に押し込んで席を確保。そして両隣の乗客も着席して一息ついた。
その途端にあちこちで阿鼻叫喚の怒鳴りあいが始まった。どちらが先に席を確保したか争う喧嘩である。女性車掌がホイッスルを吹いて静粛を呼び掛けるも車内の喧騒は収まらない。車内は立錐の余地もないほどの混雑で女性車掌もまったく動けない。乗降扉も閉まらないほどだ。数分してバスが走りだしても喧嘩は収まらない。十数分後バスがつづら折りの山道を下り始めた頃にやっと喧嘩の怒声は収まった。
そもそもバス乗り場が明確でないことが混乱の一因であり、窓からの荷物の投げ込みを容認していることも問題である。そして運転手も車掌も混乱そのものを放置して責任回避している。ルールを定めてそれを守るという社会規範が欠如していれば、やったもの勝ち、力の強いものが勝つという恐ろしい世界になることを実感した。ちなみに始発駅の列車の自由席(ジェネラル、セカンドクラスの車両)の席取りも列車が停車する前から同様のカオス世界が出現する。
外国人観光客がインド旅行を楽しむためには

日本ではカレーブームでインド料理が人気というが筆者が過去4回、合計10カ月ほどインド各地をバックパッカー旅行した結論は「インド庶民がフツウにゆく食堂のインド料理は日本人観光客にはとても食べられないシロモノ」。調理が不衛生、使い古した油まみれ、塩分過多、刺激臭の強い香辛料などなど。
インド旅行を楽しみたければ多少高くても一流旅行会社のパッケージツアーに参加するべし。五つ星ホテルに宿泊して、豪華マハラジャ列車に乗り、完全冷暖房バスで移動して、世界遺産を巡り、高級レストランで外国人向けにアレンジした高級インド料理を食べれば素晴らしいインド体験ができる。
さらに先進国共通の社会規範を放念して何事にも寛容と諦観の仏様のような大きな心でインドを旅すれば美しいインドが眼前に広がって来ると確信する。
地元のインド人との心のふれあい、本場の家庭的インド料理、旅のハプニングなどをゆめゆめ期待してはいけない。ヒンズー(インドの意味の現地語)的現実世界を完全に遮断して先進国観光客向けに周到に手配された“虚構のインド”を楽しむべきである。
以上 次回に続く