「国際支援縮小」の功罪
次に、トランプの米国の黄金時代を築く手法の1つである「国際支援縮小」をみてみる。
トランプは国際開発庁(USAID)を「腐敗し、浪費の甚だしい組織」と断定し、同庁のほぼ全ての職員を休職扱いにした。現在、同庁は閉鎖状態になっている。
この国際開発庁の閉鎖を主導したのは、トランプから連邦政府の支出削減を目指す「政府効率化省(DOGE)」のトップに指名された実業家で超富裕層のイーロン・マスク氏である。マスクについては改めて説明する必要はあるまいが、2024年の米大統領選挙で、彼は、トランプと共和党候補に巨額の献金を行い、トランプの勝利に大いに貢献した。
国際開発庁は、ジョン・F・ケネディ元大統領(民主党)が1961年に設置した世界で人道支援を行う政府組織である。約1万人の職員がおり、人道支援における世界の約40%を担っている。2023年の予算は、400億ドル(約6兆1000億円 1ドル=152円で換算)である。
その中には、途上国で飢餓に苦しむ人々に対する食糧提供や治療薬の提供、ウイルスの拡散防止などがある。国際開発庁の事実上の閉鎖により、すでにケニアなどでHIVに感染したエイズ患者が、治療薬を入手できないという深刻な問題が発生している。
では、米国民は国際開発庁と政府効率化省をどのようにみているのだろうか。英誌エコノミストと調査会社ユーガブの全国共同世論調査(2025年2月9~11日実施)によれば、全体で46%が国際開発庁に「好感を持っている」と回答したのに対して、30%が「好感を持っていない」と答えた。ただし、2024年の米大統領選挙でトランプに投票した有権者に限ってみると、65%が国際開発庁に好感を持っていない。
同共同調査では、海外への人道支援中止に関して、全体で35%が「賛成」、53%が「反対」と回答し、「反対」が「賛成」を18ポイント上回った。ただ、米国民の42%が政府効率化省に「好感を持っている」、38%が「好感を持っていない」と回答し、彼らは基本的には政府の支出削減には「賛成」の態度を示している。
さて、海外援助に関してマルコ・ルビオ国務長官は、組織を再構築し、海外援助は終了しないという立場をとり、「国際開発庁を外交政策に沿ったものにする」と、微調整をした。対中政策に加えて、国際開発庁を巡っても、今後、マスクとルビオが衝突する可能性があるのだが、現時点ではトランプはマスクを擁護している。マスクは、連邦政府の大幅な支出削減、特に海外支援の削減に焦点を当てているが、次は教育省の閉鎖に着手するとみられている。
ちなみに、同共同調査では、米国民の58%が教育省の廃止に「反対」している。米国の教育省は、日本の文部科学省とは違い、国全体の教育行政を統括している訳ではない。今は、DEI(Diversity, Equity, Inclusion:多様性、公平性、包括性)等、多様性を重視するプログラムに補助金を出している。トランプとマスクは、この補助金を排除する考えだ。