2人の共通点
2019年米中間選挙においてトランプは、下院選挙で多数派を奪われたことにより、議会下院で弾劾裁判にかけられた。その経験から、トランプは2026年秋の中間選挙で、共和党が占める現在のトリプルレッド(ホワイトハウス、上下両院)を維持したい考えだ。
トランプはすでに、マスク率いる政府効率化省が2026年7月4日の独立記念日までに成果を出すと語った。米国は、来年建国250周年を迎えるので、そこで同省の成果を強調し、米国は黄金時代を迎えたと断言して、中間選挙につなげるだろう。
トランプの黄金時代を築く1つの政策である領土拡張には、2面性がある。グリーンランドの強制的購入やパナマ運河の管轄権再取得は、国際法に違反する。「武力のプーチン」と「ディールのトランプ」は、手法は異なるが、到着地点としては「領土拡張」を目指し、国際法を犯す点でも共通している。プーチンは国際法よりも武力、トランプはそれよりもディールによって、2人ともに利益の獲得を狙い、意識の上で、自身を国際法の上に位置づけている。
一方で、米国によるレアアース等の鉱物資源が眠るグリーンランドの安定的管理や、太平洋と大西洋をつなぐパナマ運河における中国の影響力の削減は、日本の立場からみると国益になる。
同様に、連邦政府の支出削減に関しても2面性があると言える。国際支援の大幅削減および、連邦政府職員の休職勧奨や人員削減は、連邦政府の赤字を減らすという即効性がある。
他方、国際支援の削減は、米国の信頼度を損なうというマイナス効果があるが、同時に米国がいかに世界に貢献してきたかを知らしめる効果になった。
国内的には、連邦政府の職員は退職を申請し、その代わりに9月分までの給料を得るのか、あるいは解雇のリスクがあるが政府に留まり仕事を続けるのかの選択を迫られた。休職勧奨の対象となった連邦職員は、いわゆる「圧力と脅迫」をかけられ、ストレスを感じるだろう。連邦職員の大量解雇は、社会全体が不安定要因にもなる。
次に「関税偏重」である。関税には国内産業を守るというメリットが存在する一方で、輸入品に高関税がかかれば、消費税として生活者に負担を強いるという側面もある。カマラ・ハリス前副大統領(民主党)は、トランプとのテレビ討論会で、「トランプ消費税」と呼んだ。
トランプは自動車や自動車部品、野菜、果物、ビール等のメキシコからの輸入品に対して、25%の関税を課すと発表したが、メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領が米国との国境に1万人の兵士を送り、国境を強化すると約束すると、トランプは関税の発動を1カ月間停止した。
しかし、米有力紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によれば、2021年バイデン前政権は関税で圧力を使って、圧力をかけずに、メキシコ政府から国境管理の強化のため、1万人の派兵に対する同意を引き出した。ジョー・バイデン前大統領(民主党)は、相手国のリーダーや国民の心証を害することなく、相手国の兵士の派遣に成功したのである。
トランプが今後、「関税偏重」政策を強化していけば、米国は同盟国や友好国の友人を失い、真に尊敬される国とはほど遠い存在に成り下がるだろう。
トランプは、日本製鉄のUSスチール完全子会社化を阻止し、海外からの鉄鋼製品やアルミ製品に25%の関税を課して、USスチールを守れば、日本製鉄の優れた技術を得ることができない。「メイド・イン・アメリカ」の鉄鋼が、国内外でトランプの期待したようには、売れない可能性も出てくるだろう。
こうしてみてくると、トランプが呼ぶ米国の「黄金時代」とは、国際秩序を破壊し、米国社会に不安定要因をもたらし、米国が世界の同盟国と友好国に心から尊敬されない時代ということになる。トランプは、米国がすでに世界から尊敬されるようになったと強調するが、その認識は世界とかなりずれていると言わざるを得ない。