「関税偏重」の政策
最後に、「関税偏重」の政策である。トランプには、相手国が米国製品に高い関税をかけている場合、相手国からの輸入品に同じ水準まで関税を引き上げる「相互関税」や、全ての国からの輸入品に一律に関税をかける「一律関税」といった関税を武器にして、米国の貿易赤字を減少させる狙いがある。また、関税により歳入を増加させる、圧力をかけ、外国企業からの投資を呼び込み、雇用を創出する、といった意図があることも確かだ。
さらに、中国からの鎮痛剤フェンタニル流入阻止や、国境管理の強化を求めるために、関税を交渉カードとして活用している。
昨年から日本の関心を集めている日本製鉄の米鉄鋼大手USスチールの問題についてもみてみよう。
トランプは石破茂総理との日米首脳会談で、日本製鉄によるUSスチール買収計画は、「買収ではなく投資で合意」と明言した。米ウォール・ストリート・ジャーナルは、早速、日本製鉄のUSスチール買収に道を開いたという見出しをつけた。
しかし、トランプは日米首脳会談を終えると、南部フロリダ州にある私邸「マーラ・ア・ラーゴ」に向かい、共和党上院議員との夕食会で演説を行い、グーグルやフェイスブックといった現在の米国を代表する企業と比較しながら、過去にはUSスチールは偉大な企業であったと語った。その上で、他国によるUSスチール買収は許さないと断言し、支持者に向けて自分は愛国心を持っていると訴えた。
加えて、日本製鉄のUSスチール買収問題には、マスクの存在も看過できない。以下で説明しよう。
前で紹介したエコノミストとユーガブの共同世論調査では、マスクの支持率は38%で、不支持の47%を9ポイント下回った。また、米国民の49%が「マスクは浪費と詐欺を削減している」と捉えているのに対して、51%が「連邦政府の有益なプログラムを削減している」とみている。
さらに、トランプ政権に対するマスクの影響力の程度について、63%が「大いにある」と回答した。しかも、トランプ政権内でのマスクの影響力に対する要望に関して、45%が「全く持ってもらいたくない」と答え、18%の「大いに持ってもらいたい」と26%の「少し持ってもらいたい」を足した44%と拮抗している。
そこで、民主党は来年11月の中間選挙を見据えて、共和党をマスクに支配された超富裕層の味方の党とレッテルを貼り、「超富裕層対労働者」の対立構図を作って、トランプから労働者の支持を取り戻す戦略を打ち出している。トランプはそれを警戒し、USスチールを米国企業として残し、日本製鉄に投資させ、労働者の支持と票をつなぎ留めたいのだ。
ここでもトランプは、鉄鋼製品とアルミ製品に対する25%の関税が、USスチールを復活させる武器とみており、関税に対する偏重ぶりが伺える。