2025年12月6日(土)

Wedge REPORT

2025年3月6日

コロナ禍でキャンセルが増えた飲食業界

 経済産業省が18年に公表した「No Show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」では、無断キャンセルによる被害額が年間約2000億円に上ると推計されている 。予約1~2日前に起こる「ドタキャン」も合わせると、その発生率は予約全体の6%程度で被害額は1.6兆円にのぼると推計されている。

 飲食事業の市場規模を25兆円、平均人件費率を37%とすると(16年〈平成28年〉企業活動基本調査を基に推計)、No showの損害額である2000億円は、飲食業従事者の総賃金の2%強に相当する。飲食事業の平均的な営業利益率は2.3%であり、事業者はそれをカバーするために対策を打つことになり、コストの増加として顧客にも何らかの影響を与える。

 筆者が最近話を聞いた飲食店経営者の半数強がこの10年ほどでキャンセルは増加し、それにつれてノーショーも増加した印象を持つと話している。その背景として、インターネット予約システムの普及に伴い、簡単に予約ができるようになったこと、コロナ禍においては、感染拡大防止のため柔軟なキャンセル対応が求められ、これが利用者のキャンセルに対する心理的ハードルを下げる要因となったのではないかと指摘していた。

 飲食店の検索・予約サイトTableCheckの20年の調査では、無断キャンセル理由の第1位は「とりあえず場所確保のため予約」であり、無断キャンセル時の予約手段としてもっとも多いのは「グルメサイト」だだった。さらに、無断キャンセルが深刻化している原因として 「予約ツールの普及や多様化のため」「ネット予約のポイント稼ぎのため」「キャンセル料の支払いを免れるため」「予約を忘れてしまうため」の4つを挙げていた。

 同調査の発表資料では「気軽に予約できるグルメサイトでは有効なキャンセル防止の仕組みが整備されていない」と指摘されている。また、同社の17年の調査では、無断キャンセルの比率には季節変動は特になく、無断キャンセルの比率はおおよそ10%前後で推移していた

進められつつある対策

 法的な側面から見ると、民法第415条に基づき、無断キャンセルは「契約不履行」に該当する可能性がある。特に意図的な大量予約によるキャンセルは業務妨害罪に問われることもある。事業者の方針にもよるが、①利用規約の明確化:予約時にキャンセルポリシーを明示し、法的拘束力を持たせる、②証拠の保存:予約履歴や通話記録を保持し、必要に応じて法的措置を取る体制を整備が対応の基本となる。

 実際に日本の飲食店でもキャンセルに対する対応がみられるようになっている。

 一つは、料金の回収サービスである。例えば、弁護士事務所がキャンセル料を回収代行する「ノーキャンドットコム」 というサービスが展開されている。客単価3000~5000円で2~6人の予約キャンセルへの依頼が多く、無断キャンセルで請求される料金はコース予約の場合は全額、席のみ予約は平均客単価の7割程度となっているという。

 食べログは6月、インバウンド向け予約サービスを本格的に始めた。英語、中国語、韓国語で予約できる店舗を約3万5000店と従来の6倍に増やした。予約時にクレジットカードの提示を求め、システム利用料として1人あたり400円を徴収する機能も取り入れた。店舗側にとって懸念材料だったキャンセルの発生をできるだけ抑える狙いで、今後、予約可能な店舗をさらに拡大していく 。


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