2025年3月26日(水)

トランプ2.0

2025年3月13日

ゼレンスキーの報復

CPAC2025に参加した海軍の男性は立ち上がって、ウクライナ支援に猛反対の意思を表明した

 このように、ウクライナ問題を巡って、米国民全体とMAGAの意識にはかなり隔たりがある。では、MAGAたちはホワイトハウスでのトランプとゼレンスキーの激しい口論をどのようにみたのだろうか。

 中西部インディアナ州インディアナポリス在住のデビッド・ブルックス氏はこう語った。

「公の場で2国のリーダーが口論するのを観て驚きました。ゼレンスキーは、米国からの軍事支援と金銭的支援に感謝の念を持っていないように見えました。会談でゼレンスキーは、恥をかかされ、困惑したので、米国が求めている鉱物資源の権益に関する協定に署名をしないことによって、トランプに報復したと思います」

 仮に、ブルックスの見方が正しいとすれば、トランプはゼレンスキーの報復に対して、軍事支援の一時停止、軍事情報共有の一時停止、および衛星を利用した高速インターネットサービス、スターリンクの供給停止を含めた「罰」を、ウクライナに次々と与えた。トランプが言い続けてきた「力による平和(Peace Through Strength)」は、権威主義的で加害者のロシアに対してではなく、民主主義的で被害者のウクライナに向けられた。しかし、MAGAたちは、会談でのトランプの主張を正当化する。

 MAGA運動の支持者、シカゴ在住のトム・ファイファー氏は次のように語った。

「トランプは正しいです。ウクライナは交渉カードを持っていません。トランプの言う通りです。ゼレンスキーはあまり賢くない人間だと思いました」

 裏返せば、トランプは交渉カードを持っており、それを切ってゼレンスキーに「罰」を与えたと言える。いずれにしても、国際法を破ったロシアではなく、ウクライナを「力」でねじ伏せて、鉱物資源の権益協定に署名させようとしたのだ。

 これまでの経緯として、ウクライナにはレアアース、チタン、リチウムなどの鉱物資源があり、一般にそこへの権益を得ることは、米国にとって中国依存を減らすことや、安定的供給などメリットがある。

 ただし、これのみではない。では、鉱物資源の権益協定は、トランプとって何をもたらすのか。

トランプの「金の循環」

 まず、トランプの鉱物資源獲得にこだわる隠された理由について述べる前に、今回の会談でトランプと同様、激しくゼレンスキーを「口撃」したバンスについて一言述べておこう。

CPAC2025で司会者の質問に答える「政府効率化省」のトップ、イーロン・マスク

 筆者はバンスのゼレンスキーに対する攻撃的な態度の背景には、超富裕層の実業家で「政府効率化省」のトップ、イーロン・マスク氏の存在があるとみている。トランプの大統領就任以来、マスクは「マスク大統領」「トランプとマスクは共同大統領」「マスク副大統領」などと呼ばれ、バンスの存在感が薄れてきている。

 バンスは、ゼレンスキーが米国に感謝をしていないというMAGAたちの思いを代弁し、MAGAと自分の絆を深め、MAGAのトップ(トランプ)の後継者は自分であることを彼らに確認させたかったのだ。

 トランプとゼレンスキーとの会談を観察すると、明らかにトランプはプーチンに配慮して、安全保障に関しては明言しないという態度をとっていた。

 トランプ政権の商務長官ハワード・ラトニック氏は、投資会社カンター・フィッツジェラルドのCEOであった。米有力紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によると、カンター・フィッツジェラルドは、金属や鉱物の採掘を行うクリティカル・メタルズ社を所有しており、ラトニックはグリーンランドの鉱物資源に高い関心を持っているとみられている。

 さらに、ニューヨーク・タイムズは2024年米大統領選挙ないし大統領就任式に政治献金を行ったシリコンバレーの投資家マーク・アンドリーセン氏、テック起業家サム・アルトマン氏、アマゾンの設立者ジェフ・ベゾフ氏が、AI(人工知能)を使ってグリーランドの鉱物資源の探査を行っているコボルド・メタルズ社に投資をしていると報道している。

 トランプはグリーンランド購入に関して、北極圏で活発化する中国とロシアの船舶航行の問題を取り上げ、米国のみならず、国際社会の安全保障に関わると議論し、背後にある鉱物資源から得る経済的利益についてはあまり語っていない。

 ウクライナに関しては、逆に鉱物資源を前面に出しており、鉱物資源の権益協定にかなりこだわっている。その理由は何か。

 トランプは、米国の鉱物資源の探査や開発を行う企業および投資家が、膨大な利益を上げ、その一部の利益が彼の政治団体に政治献金として循環するという「金の流れの仕組み」を作りたいのだろう。ウクライナの鉱物資源から生まれる経済的利益を自身の政治団体に還元する仕組みである。

 これは合法ではあるが、仮にそうなれば、被害国ウクライナから軍事支援と引き換えに、鉱物を搾取し、利益を得る資源開発会社、投資家、トランプの「ウイン・ウイン・ウイン」になるのだ。


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