2026年独立記念日と中間選挙――「時限付き」
ウクライナ側は、鉱物資源の協定に安全保障が含まれていなければ意味がないと主張する。彼らは鉱物資源と武器の取引を要求している。ところが、これまでみてきたようにトランプは、鉱物資源から生まれる経済的利益をウクライナに求め、安全保障をつけるつもりはない。
その上、一般の支持者に対しては、過去に投じた米国民の税金回収をアピールする。その点からしても、トランプとゼレンスキーの隔たりは大きい。
仮に、プーチンが、現在ロシアが支配している東部4州において米国の資源開発会社との共同開発を提案すれば、トランプはそれに乗るかもしれない。そうすれば、経済的利益はより増す。
マスクの存在は、ここでも見え隠れする。トランプとゼレンスキーの会談が行われた日、ウクライナ支持の米国人の夫妻がホワイトハウスに向かって歩いていた。妻は体にウクライナの国旗を巻き付け、ウクライナ支持のメッセージを発信していた。筆者が彼らに話しかけると、夫がこう言ったのだ。
「マスクはウクライナのリチウムに関心があります。EV(電気自動車)バッテリーに使用できるからです」
彼の見方が正しければ、マスクもウクライナとの鉱物資源の権益協定署名をトランプにプッシュしているかもしれない。
トランプは現在、マスクと蜜月関係にあるが、2人の関係が崩れた場合、資金源をどこに求めるのかという問題が生じる。トランプは、ウクライナとの鉱物資源の権益協定を「ビック・ディール(大きな取引)」と呼んでおり、鉱物資源から経済的利益を得るであろう資源開発会社や投資家を「ポストマスク」の資金源として考えている節がある。
さらに、トランプがゼレンスキーに鉱物資源の権益協定署名を急ぐもう1つの理由は、トランプにとって「時限付き」だからである。これはどういう意味なのか説明しよう。
来年の7月4日、米国は建国250周年を迎える。トランプは、自分が「ピースメーカー(平和の構築者)」として、ロシアとウクライナの戦争を終結させたと、そこで成果を強調したいのだ。そして、その成果を秋の中間選挙のアピール材料に利用したいのだ。それがトランプの「ロードマップ」である。
トランプは「戦争を早く終わらせる」「若者の命を救う」など「公益」に沿った発言を繰り返している。この発言には誰も反対しないだろう。
トランプはこのような発言を以って、「平和主義者」として自身を描いているが、実はその背景には上で述べたような「金の循環」と「私益」が存在するとみてよい。