2025年4月1日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年3月26日

 これには、Brexitのパンドラの箱を開くことなく、英国とEUに新たな協力の形を提供する利点がある。Brexitの傷跡が癒されれば、それは好機の瞬間でもある。欧州は今やトランプの米国よりも安定したビジネス環境を提供できる。

 より大きな欧州統合への道には多くの意見の対立や挫折があろう。そうした衝突は、欧州は決してしっかり行動することはないとの懐疑論を膨らませる。しかし、歴代の欧州の指導者たちは、合意することの政治的責務が圧倒的であったがゆえに、遂には目標に辿り着いた。

 欧州統合のすべての大きな躍進は地政学的なショックに起因した。まずは第二次世界大戦の終結、その次に冷戦の終結である。今や、トランプのおかげで、我々は大西洋同盟の終結を見つつある。

 欧州は強さと創造性をもって過去二つの大きなチャレンジに対応した。欧州は今回も対応出来る。

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EU防衛支出8000億ユーロ増という目標

 トランプ政権の登場によって欧州の安全保障の環境は激変した。欧州(EUおよび英国)は抜本的に軍事力を強化し、米国依存の現状を是正することなくしては、その信ずる理念に基づき自律的に行動することを束縛される危険に当面していると認識しているものと思われる。 

 トランプ政権がウクライナに対し、戦況を左右する兵器とインテリジェンスの供与を一方的に遮断(後に再開)したことは、米国を頼りに出来ないことの証左として欧州に衝撃を与えた。

 上記の論説は、欧州の動きを要領よくまとめた良い論説であるが、ここでは、3月4日、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長が公表した欧州の防衛力強化のための提案(ReArm Europe)について、若干の補足とコメントをしておきたい。

 彼女は「我々は最も由々しき危険な時代に生きている」「我々は再軍備の時代にある」と切迫感を訴えたが、提案によれば、4年間で防衛支出をEU全体で8000億ユーロ増強するとの野心的な目標を掲げている。そのうちの大部分は加盟国によるもので、加盟国が防衛支出を国内総生産(GDP)比平均して1.5%増やすことにより4年間で6500億ユーロになる。

 このために、EUの財政規律の運用を見直し、必要な防衛支出のための財政赤字を許容する提案を近く提案する。このことは、GDP比1.5%増に必要な財政赤字は許容することを意味するようである。


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