万引き対策にも注力
防犯対策、つまり万引きによるロス防止に注力しているというのも両者は極めて似ている。アメリカの場合は、セルフレジはある程度は普及しており、そしてその発展型である無人店舗の実験なども行われている。けれども、特に無人店舗の場合は、治安状況が変動する大都市のダウンタウンの場合は非常に難しいという結論がほぼ出ている。特にニューヨークでは、依然として集団万引き犯が横行しており、高額商品は施錠したケースに展示するなど、対策はイタチごっことなっている。
そんな中で、ウォルマートの場合は、まず治安の悪い都市部にはできるだけ出店しないようにしている。また、郊外であっても万引きロス対策は厳格だ。
セルフレジに係員を貼り付けているだけでなく、レジを通過した後の出口に別の係員を配置してレシートと購入アイテムの照合を行う店も多い。多くの小売りがブランドイメージ毀損を恐れて、万引きロス対策を「見えない形」で実施している中で、ウォルマートの性悪説にも似たアプローチは特筆に値する。
一方で、トライアルの場合は、防犯対策にもテクノロジーを動員している。膨大な数のカメラを店内に配置して、AIに監視させている。これは動線や陳列状況を解析するだけでなく、買い物客が例外的な行動をするとすぐに発見できるようになっている。
また24時間営業店が多いといっても、時間帯によっては出入り口を限定するなど、万引きによるロスを抑え込む思い切った対策を取ることがある。レジカートにおいても、店舗によっては稼働させない時間帯があるという。
これは、高価なハイテク機器でもあるカートが盗まれるリスク、またレジの省人化が万引きを誘発するリスクを計算してのことであろう。個々の対策については、そのままアメリカで応用できるものはないが、防犯について厳しい問題意識を持ち、ロス削減を目指しているという姿勢は、両者に共通点がある。
買収後のカギは大都市圏の店舗経営
つまり郊外型の大規模店を、テクノロジーを入れながら効率化するということでは、ウォルマートとトライアルにはかなりの共通点が指摘できるというわけだ。では、今回の西友買収について、トライアルがウォルマートの陥った失敗を繰り返すかどうかだが、これは大都市圏という市場に企業として、どのように参入するかにかかっていると考える。
本稿の最初の部分で、ウォルマートは日本独特の薄利多品種の商習慣に敗北したと述べた。これは日米の報道が、関係者の証言を含めて指摘しているし、日米の商品棚をよく見てきた筆者の実感からも同様の印象を得ている。
けれども、ウォルマートが西友の経営に失敗したのには、もう一つ理由があると考えられる。それは大都市圏の特殊性に上手く適応できなかった可能性だ。