この点に関しては、トライアルもゼロからのスタートということが言える。これまでのトライアルは、九州をはじめ、北海道や北関東など、人件費や不動産コストに関して努力すれば圧縮できる環境で柔軟な経営を展開してきた。全般的に地価の抑制されている地方でも、その中で「交通の便がいい」けれども「賃料の比較的安価」な物件を探して出店してきている。そのトライアルにとって、首都圏、京阪神を含む大都市圏というのは条件が全く異なる。
まず、地価や賃料が全く違う。そして人件費も高い。つまり固定費が坪当たり、あるいは時給換算の人件費は倍かそれ以上になる。その分を商圏の人口密度と、市場の購買力で補っていかなくてはならない。
ウォルマートにしても、大都市のダウンタウンではビジネスモデルが成立しないので原則出店していない。トライアルの場合は、西友のブランド名を当面は残し、将来については未定としているが、明らかに現在のトライアルのビジネスモデルを大都市圏に持ち込むのには無理がある。
反対に、大都市圏や、購買力の強い商圏では業態に付加価値が求められる。アメリカの全国スーパーの中で、高付加価値型といえば「オーガニック食材」を売り物にしている「ホールフーズ」だが、アマゾンが買収した後も、内外装への投資を怠っていない。単価が高いオーガニック商品を全面に出す一方で、売り場への投資も行って、高い客単価を実現するのが「ホールフーズ」の戦略だ。
日本の場合は、例えば高付加価値商品に絞った品揃えで、高い坪当たり単価を叩き出している成城石井のような業態もある。またデパートの地下食品売り場が今でも大きな販売力を維持しているように大都市の市場には特殊性がある。そんな中で、安さと品揃えをかなり高度に両立させているチェーンとしては『ライフ』のような事例もある。
トライアルはどう戦略を練るのか
トライアルは、そのような大都市市場の特殊性を、得意とするテクノロジー、特に店内カメラとAIによる動線や陳列の管理、そして顧客ごとのPOSデータ蓄積と、その解析などを活かして対応してゆくことになる。その意味で、買収後の西友ブランドについて、現時点では柔軟に考えているというのは、慎重に戦略を練っていることを伺わせる。
データ収集と解析のノウハウだけを持ち込み、西友ブランドを残しつつ、高付加価値商品を含む多品種対応で当面は進む可能性も否定できない。ウォルマートの轍を踏まず、他を圧倒する利益率を叩き出せるのかどうか、これはトライアルにとっては大きな挑戦になるであろう。