反感を買うマスクとテスラ
90年代まで、米国東部の炭鉱で炭鉱労働者の組合が労働協約をめぐりストライキに入ると、多くの車が黄色いリボンを付けた。組合支持の黄色いリボンをつけた車でないと会社側の車が様子を探りに来たと思われ、狙撃される可能性があったからだ。当時の炭鉱労働者はスト中にライフルを持ち狙撃するほど過激だった。
いま、米国でテスラ車には、「この車はイーロン・マスクが狂う前に購入しました」とのステッカーを貼らなければ、車に落書きされるとまで言われている。既に、車にナチのカギ十字の落書きをされたテスラ所有者の報告が複数ある。
2月下旬には、コロラド州のテスラのディーラーに火炎瓶を投げ、ビルにナチの車と落書きした女性が逮捕された。ポーランド郊外のディーラーは何者かに銃撃された。テスラの充電ポイントも放火されている。
3月1日土曜日には、全米50カ所以上でテスラのディーラーへのデモが実行された。ニューヨークのデモでは9人が拘束された。
熱狂的な支持者がいるマスクだが、その分反発も大きい中で、急上昇したテスラ株も下落している。
マスクがトランプ支持を表明してからテスラ株は大きく上昇した。昨年前半には200ドルを下回っていたテスラ株は、12月17日に480ドルを超えるほど上昇したが、その後、上昇分をほぼ帳消しにするほど下落している。
デモが行われた後の3月3日の取引では、始値300.34ドルから終値284.65ドルまで5.2%下落した。その後も下落が続き、3月10日には1日で12%下落し終値は222.15ドルになった。
トランプ大統領もテスラの状況を心配したのか、3月11日にテスラ車を購入したと明らかにし、ホワイトハウスで赤いテスラSの運転席に座る姿を公開した。トランプ大統領はSNSにも投稿した「常軌を逸した過激な左翼は、世界で最も優れた自動車メーカーのひとつで、イーロン・マスクのベイビーでもあるテスラを共謀のうえ不法にボイコットしている」。
そうは言いながら、トランプ大統領は800以上の連邦政府施設でのEVへの充電設備を廃止するよう指示し、EVへの補助打ち切りの大統領令も署名している。マスクを支援しながらも、本音ではEVは嫌いなようだ。
大統領が特定の企業を後押しする異常な事態になったが、その効果か株価は3月10日を底に下げ止まったように見える。3月18日の始値は、228.19ドルだ。しかし、トランプ大統領の行動には反発も大きく、テスラへの逆風は止みそうにない。
EV販売は米中で成長
EVは日本ではあまり注目されないし、売れていない。中国のEV専業メーカー比亜迪(BYD)が日本で販売を始めたことが話題になったが、今年2月の軽自動車を含む乗用車の販売シェアに占めるEVの比率は、2.1%。前年同月の3.4%から減少している。
しかし、世界の自動車市場ではEVは大きなシェアを持つ。中国では新車販売に占めるEVのシェアが昨年半ばに50%を超えた。欧州でも20%を超える。米国も10%に近づきつつある。
世界のEV市場も成長を続けている。欧州では23年末のドイツの補助金打ち切りの影響などがあり、24年の販売台数は前年とほぼ同じだったが、世界最大市場の中国、またバイデン政権による日本円換算100万円を超えるEV購入時の補助金が投入された米国では24年の販売台数は伸びた(図-1)。