2025年4月1日(火)

World Energy Watch

2025年3月26日

 EV嫌いの人たちに接近したマスクは、テスラの販売の落ち込みを心配していないのだろうか。

 8年前、1期目のトランプ大統領がパリ協定を離脱したことに憤ったマスクは、トランプの元を去った。当時のテスラには、温暖化対策はEV販売の大きな謳い文句だったので、温暖化対策のパリ協定には販売戦略上価値があった。

 しかし、8年間でマスクの財布も大きくなりテスラの体力もついた。8年前、2017年のテスラの売り上げは85億ドル。24年の売り上げは、9倍の770億ドルに成長した。8年前テスラは資金繰りも心配しなければならない企業だったが、今資金は潤沢だ。

 そのため、トランプ大統領が再度パリ協定を離脱しても、会社は揺るがない基盤ができた。

 もう一つ、マスクにはテスラよりも大事な資金源ができた。テスラの株価下落により、トランプ効果で膨れたマスクの個人資産も10兆円以上吹き飛んだが、もう一つのマスクの大きな資産である宇宙企業スペースXが政府から支援を受けることができれば、個人資産をさらに増やすことも可能だ。

 米国内でも競争相手が多くなった上に、競争力のある中国企業と競うEVよりも、競争相手がいないスペースXの企業価値を上げる方が簡単に違いない。だが、マスクにも落とし穴がある。

テスラの損失を賄いきれない可能性

 マスクは、テスラ株の値上がりを利用し時価発行増資により資金を調達してきた。テスラ車が売れず、利益が落ち込み始めると当然株価にも影響がでる。テスラが自動車メーカー世界一の時価総額であるのは、投資家の期待が大きいからだ。車が売れなくなると、期待も下がり株を利用する資金調達も苦しくなる。

 もう一つ、温暖化対策の進展もテスラに影響を与える。カリフォルニア州の民主党ニューサム知事は、連邦政府が最大7500ドルのEVへの補助金を廃止すれば、州の補助金制度を立ち上げるとしている。その制度ではテスラ車を対象外にする可能性があると報道されている。

 一方、テスラは、カリフォルニア州が自動車メーカーに課す排ガス規制を利用し利益を上げている。排ガス規制が達成できないメーカーは達成しているメーカーから排出枠のクレジットを購入し達成しなければいけない。カリフォルニア州はこの制度も同時に変更する可能性がある。

 EV専業のテスラは、カリフォルニア州のものを含めクレジット販売で毎年大きな収入を計上している。24年は純利益額の4割に相当する約28億ドル(4200億円)だった。

 カリフォルニア州が制度を変更することがあれば、テスラは大きな収益源を失う。トランプ大統領が、あまりに民主党の温暖化対策を攻撃すると方向が変わり、テスラがとばっちりを食らうことがあるかもしれない。

間違いだらけの電力問題
山本隆三 (著) ¥1,650 税込
Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る