海外における王族の留学事情
このような事情から世界の王族・貴族たちは、イギリス、アメリカ、フランスなど、海外を目指してきた。英国なら、オックスフォード、ケンブリッジ(両者を合わせてオックスブリッジと呼ぶ)や、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスであり、アメリカならアイビーリーグやプラス(マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校など)、さらには、首都ワシントンDCの名門ジョージタウン大学などである。フランスなら、パリ政治学院に代表されるグランゼコール(エリート養成校)がある。
王族の子女の留学は、学業だけを目的としているわけではない。この点が一般の留学とは異なる点である。
上記の大学には政治家を目指す野心的な学生もいるが、それでも大半は庶民層出身である。ただ、少数ながら、他国の王族や上流階級出身の子弟もいる。この点にこそ、王族の留学の意義がある。
王族の子女からすれば、他国の王子・王女との交流を通じて、同じ立場の友人やロールモデルを見出すことができる。自然と国際的な視野を持つようになるうえ、将来におよぶ王族間ネットワークを築くこともできる。
オックスブリッジにおける王族留学事情
オックスブリッジへは、英国王室も積極的に子女を学ばせている。エドワード7世が皇太子時代にオックスフォード、ケンブリッジ両大学に学んだことを端緒として、その後、チャールズ皇太子(現国王)がケンブリッジ大学トリニティ・カレッジで考古学、人類学を専攻している。卒業後もしばしばケンブリッジを訪れており、筆者自身もかの地に留学している時に、オールド・スクールズの前で護衛とともに車を降りるチャールズ皇太子を見かけたことがある。
両大学には、世界中から王族の子弟、政治家志望の学生が学びに来ている。日本人にもよく知られている例が、ブータン王室のジグミ・ケサル国王であり、皇太子時代にアメリカ留学を経て、英国にわたり、オックスフォード大学モードリン・カレッジで国際関係論を専攻し、同大学より政治学修士号を修得している。
ブータンを含め、大英帝国以来の旧植民地は、とりわけ多くの子女をオックスブリッジに留学させている。アジア・アフリカ諸国の王族教育は、伝統文化の継承と西洋教育の融合という、相反する課題を抱えている。
そのために将来のエリートたちを若くしてオックスブリッジで学ばせることが多い。たとえば、英領ベチュアナランドのツワナ人部族ングワト族の王子セレツェ・カーマは、オックスフォード大学で教育を受け、その後、独立したボツワナの初代大統領になっている。
