西側メディアには数百人の一般市民が殺害されたという憂慮すべきレポートが溢れた。9日、CNNは、暫定政権に忠実な部隊が即時処刑を行い、シリアを浄化すると主張してアサド政権の残党を掃討しているおぞましい映像を報じた。
その週末、シリア正教大主教と他のキリスト教正教指導者達は、恐ろしい行為を即時停止し、平和的な解決を求める共同声明を出したが、今回の出来事は、長年の残酷な内戦で荒廃したシリアに取って痛い後退だ。
シリア人達は、シリアに対する西側の制裁を解除する事を望んでいた。彼らは、制裁はアサド政権を罰するためであり、同政権を倒した人々に対して適用されるべきではないと、もっともな主張をした。
しかし、今やシリアで大虐殺の波が解き放たれた以上、米国と西側諸国が早期に制裁を解除するのは困難だ。シリアで一つの黒歴史が終わったが、新たな黒歴史の始まりとならない事を祈っている。
* * *
「穏健なイスラム原理主義」のギャップ
シリアでイスラム原理主義暫定政権の部隊と旧アサド政権派との衝突や一般市民の虐殺が始まっていることは憂慮すべき状況だ。上記の論説の「アサド政権を支えたアラウィ派、キリスト教徒、その他の少数派は、過激派の過去を持つスンニ派イスラム原理主義政権を恐れる十分な理由がある」という指摘は正しい。
まず、上記の論説も指摘しているが、シャラア暫定大統領は、アルカイダあがりであり、暫定政権の中心となっているHTSはイスラム国に参加していたヌスラ戦線であり、HTSの本拠地では今でもイスラム過激主義グループが用いるジハード旗が翻っているということだけで、十分にこのシリアの暫定政権の危うさを示している。
国際社会からの強い批判を浴びて、今回の衝突は収拾の方向に向かっている様だが、このスンニ派イスラム原理主義政権と旧アサド政権の中核だったアラウィ派との関係のみならず、キリスト教徒、ドゥルーズ教徒、クルド人他の少数派との関係は大きな火種となろう。
あるデータでは、シリアの人口の約74%がスンニ派、約13%がアラウィ派等のシーア派、10%がキリスト教徒、約3%がドゥルーズ教徒と言われていて、別のデータでは、人口の約7%がクルド人だが、例えば、暫定政権側は、女性にスカーフの着用を強要したり、キリスト教徒に対して改宗を慫慂(しょうよう)したりしている。さらに、暫定政権が作った新教育指導要領では、ユダヤ人とキリスト教徒を「地獄に落ちる者」と表現していると伝えられている。
