シャラア暫定大統領は、「穏健なイスラム原理主義政権を目指す」と繰り返しているが、元イスラム過激派のイメージする「穏健なイスラム原理主義」と我々が受け入れ可能な「イスラム原理主義」との間には自ずとギャップがある事を覚悟しなければならないだろう。上記の論説も早期の対シリア制裁の解除に疑問を投げかけている。
火種となり得るクルド勢力
シリアの少数派の中で潜在的に最も大きな問題は、北部と南部に自治地域を設けている武装したクルド人の処遇であろう。トルコはシリアのクルド勢力はトルコからの分離独立を目的とするPKK(クルド労働者党)の一部であると敵視しており、過去数回、越境作戦を行い、北部のクルド勢力の掃討を目論んだが成功していない。クルド勢力の精強さが特筆される。
他方、HTSのスポンサーはトルコであるから、当初、シャラア暫定大統領はクルド勢力に対して武装解除を求め、上記の論説でも触れられている国内各勢力の和解のための国民対話集会にクルド勢力を招待しなかった。その後、3月10日、クルド勢力は暫定政権の傘下に入るという合意がなされたと報じられているが、その前の3月1日、PKKはトルコとの停戦に合意したと報じられており、これがシリアで暫定政府とクルド勢力との和解に影響した可能性が高い。
しかし、過去に何回もトルコ政府とPKKとの停戦合意は破談になっており、今回の合意が長続きするのかどうかは分からない。それ以上にクルド独立国家樹立が悲願のクルド側は、これまでと同様の自治を求める可能性が高い。
アサド政権を打倒した暫定政権側は高揚しており、停戦合意が続く限りトルコは止めるだろうが、いずれシリア国内で暫定政府とクルド人との衝突が始まることが予測される。

