2025年12月5日(金)

都市vs地方 

2025年4月23日

ニューヨークはいかに治安を回復したのか

 ハーレムの中心に近いアポロシアターは若手芸人の登竜門として有名な劇場だったが、客は公演が終わると一目散に地下鉄駅に駆け込んで家路を急いだものだった。125丁目通り周辺には麻薬患者や物盗りが溢れていたからである。

 そういう状況で、1994年にニューヨーク市長に就任した検事出身のジュリアーニ氏は「割れ窓理論」を採用して凶悪犯罪の撲滅及び市の治安改善に大きな成果を挙げた。割れ窓理論とは、石を投げて窓ガラスを割った行為など軽微な犯罪を見逃さずに摘発し、また割れた窓を放置しないことによってその街がよく管理されている印象を強調することが犯罪の抑止につながるという考え方である。

 割れ窓理論による警察力の増強によりニューヨーク市における殺人、放火など重要犯罪は、ジュリアーニ氏による市政が始まった1994年の約40万件から8年後には約16万件に減少した。

 続いて2002年にニューヨーク市長に就任したブルームバーグ氏は、経済情報産業出身の経験を生かしてニューヨーク市の地域経済の発展に力を尽くした。いったんは荒れ果てていたハーレム地域にも一般商店を復活させ、雇用も増進するなど好循環が発生するにつれて治安も回復していった。

 この時代のニューヨーク市警察は、四つ角にパトカーを止めておき、四方からそのパトカーが見えることにより犯罪抑止力を発揮するなどの工夫をした。

ニューヨーク市はセントラルパークなど街の要所にパトカーを止めて治安の回復をはかった

 ブルームバーグ市長はリベラルな考え方の持ち主で、ニューヨーク市内に溢れていたおびただしいホーレスの人々に対してシェルターを設置するだけでなく、市民活動家によるホームレス対策とも協力してホームレスを減らして治安も改善した。

 たとえば、社会事業家のロザンヌ・ハガティ氏を創設者とするコモングラウンドコミュニティーという市民団体は、最初にタイムズスクウェアの歴史的建造物「タイムズスクウェアホテル」を買い取って、日本のワンルームマンションに改装し、ホームレスの人々を入居させ、飲食店等の雇用を斡旋し家賃を払わせる方式を確立した。ブルームバーグ市長はこれらの市民団体と提携して次々とホームレスホテルを開設するよう促した(2024年4月4日本欄「【あのホームレスたちはどこへ行った?】かつてのニューヨーク「スラム街」が劇的変化を遂げられた仕組みの正体」参照)。


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