社会保障職員の大量解雇による治安悪化
マスク氏の政府効率化省(ドージ)については、その組織の設置が議会の議決を経ていない、マスク氏自身が閣僚として議会の承認を経ていない、予算について議会の権限を侵している、マスク氏のビジネスと利益相反である、効率化の成果の数字に根拠がないなど多くの批判がある。
最も注目すべき点は、このような組織の正統性の問題よりも、アメリカ合衆国保健福祉省(HHS)の5200人の職員、退役軍人省の1000人の職員、アメリカ合衆国疾病管理予防センター(CDC)の1300人の職員を含む大量の職員を連続して解雇していることである。
そもそも現代アメリカ社会の最大の問題は、国家としての富は蓄積されていても分配が上手に行われず雇用のミスマッチもあり格差が拡大していることではないか。それなのに社会保障を担う部門を真っ先に切り捨てれば問題が深刻化し治安はますます悪化する。
これはアメリカにとって、特にアメリカ大都市にとって、「いつか来た道」である。1980年代のアメリカでは、レーガン大統領が「レーガノミックス」を掲げ、市場原理を中心として社会保障を改革した。
レーガンの行った政策がすべて悪かったわけではなく、アメリカ経済はさらに発展した。ただ、一方で国内大都市の治安は悪化した。ニューヨークではマンハッタン北部のハーレム(125丁目通り付近)など本来は高級住宅街だった地域が荒れ果ててしまった。
ハーレムの高級マンションの持ち主は、家賃を払わぬ人が多い所有マンションに見切りをつけて自ら放火して火災保険を受け取り焼け残った建物を放棄したりした。アバンダントハウス(放棄住宅)という言葉が普通になった。
