実際は、中国が偉大になるためのハードルは言う程低くない。輸出の垂れ流しを止め投資に変えると言うが、輸出は国内総生産(GDP)の20%程度であるので、そう簡単に減らないし、中国の米国向けの輸出は近年減っているとはいえ、2022年段階でもいまだ全輸出の16%以上あるので、それらは確実にその他の地域に向かわざるを得ない。内需刺激策の効果が出るには時間がかかるので、当面は輸出が経済の最大の牽引車であることは変わらないだろう。
日本にとっても重要な露中引き離し
続いて、欧州から引いてアジアに集中するというのがトランプ政権の「タカ派」の立場だというが、これも不正確だろう。タカ派でもハト派でもトランプ政権下で欧州から引いていくのはコンセンサスだ。本当の「タカ派」は、対外関与を止め、台湾を含むアジアの防衛からさえ引き、孤立主義を主張する。
さらに、中国はロシアを中国から引き離すことを目論む政策は愚かだと考えているという下りがあるが、露中離反は可能であるし、必要だろう。と言うのも、米国防省の戦略に関する内部メモには、米国は欧州や中東から引き、アジアに集中する、それ以外の紛争には対応できない、従って、ロシアのことは欧州に任せる、と書いてある。
今や、台湾有事に際しては、ロシアや北朝鮮による陽動作戦の可能性を想定しなければいけないことを考えれば、日本がその矢面に立つことになるので、米国がロシアとの関係を正常化すること(それは露中引き離しにもつながる)の意味は、以前にも増して大きくなっている。そして、ロシアは中国に頼りきりになるのは嫌なのである。
ウクライナ戦争の結果、中国がロシアの生命維持装置のようになっている状況は本来は望ましくなく、そうなればなるほど、現実的な代替策があれば、それに飛びつきたいという心理がロシアには存する。同時に、トランプ政権の石油価格引き下げ努力は、益々ロシアの状況を厳しくしているはずだ。
また、経済状況を考えれば、このままロシアに付いて行って良いのかという議論は中国内にもある。従って、日本は、あらゆる機会をとらえ、中露離反のための努力をすべきなのだろう。