過去に江藤氏と同様の失言
石破内閣ばかりではなく、過去にもしばしばみられた舌禍による辞任は通常、「失言」としてひとくくりにされるが、吟味してみると、特徴ごとにいくつかのパターンに分けることができる。
専門家による分類には、口が滑る「感情型」、迷走してよけいなことを口走る「迷子型」があるというが(『失言の2パターン「感情型」と「迷子型」…口を滑らせ話も迷走の江藤前農相は「混合パターン」』5月22日、読売新聞オンライン)、筆者はあえて独断と偏見で、3通りのカテゴリーに分けたい。
ひとつは、いわば、たわごと・ざれごとを弄す虚言・妄言型。もうひとつは、ぼんやり、無能によって無知や思いやりのなさを露呈してしまうケース。これに加え、一定の定まった評価に対して、あえて持論を披瀝して挑戦する確信犯型がある。
今回の江藤農水相のケースは、誇張が明確だから、「たわごと」「虚言」にぴったりあてまる。23年4月の谷公一国家公安委員長(当時)の発言も、この類だろう。
岸田文雄首相(当時)が遊説先の和歌山県内で爆発物による襲撃を受けた時、谷氏は「(公務で出張中)うな丼を食べようとしていて報告を受けた。うな丼はしっかり食べさせていただいた」。ユーモアにしては面白くもないが、治安を預かる責任者としての自覚の薄さが問題となり、国会で野党から追及された。
さきにふれた民主党政権時代の法相発言。10年11月、柳田稔法相が地元・広島での国政報告会で「法務大臣はいい。〝個別案件についてはお答えを差し控えます〟と〝法と証拠に基づいて適切にやっております〟のふたつだけおぼえておけばいい」と放言、8日後に菅直人首相(当時)に辞表を提出した。
同じ法相の不祥事。岸田前内閣時代の22年8月、初入閣した葉梨康弘氏は同僚議員のパーティーで、「法相は死刑のハンコを押すだけの地味な仕事」などと述べ、在任3カ月で辞表提出を余儀なくされた。
法制度の維持、矯正、入国管理など幅広い任務を担うという自らの職責を理解しないのは、たわごと、ざれごとよりもっと罪が深いというべきかもしれない。それにしても、日夜激務にいそしみながら、たびたび閣僚の自嘲のツマにされる法務省の職員はどれだけ悔しい思いをしただろう。
震災関連の多くは、無能、ぼんやり型
うっかり、認識不測のパターンで思い出すのは23年8月、岸田内閣時代の野村哲郎農水相の〝汚染水〟発言だ。
野村氏は官邸で行われた東京電力福島第1原子力発電所の処理水に関する閣僚会議に出席した後、記者団への説明の中で、「〝汚染水〟のその後について情報交換した」と語ってしまった。岸田首相からの指示もあって、陳謝、釈明したが、海洋放出に強く反対する中国からは、案の定「真実を言っただけだ」(外務省報道官)と皮肉られ、付け込まれてしまった。
野村発言だけでなく、東日本大震災にからんで舌禍を引き起こす救いがたいほど不見識な政治家は他にも少なくない。安倍晋三内閣時代の17年4月、復興を所管する今村雅弘復興相が、自らの派閥パーティーで「東北の方だったからよかった」と耳を疑う暴言を吐き周囲を仰天させた。事実上の即日解任となったのは当然だった。
