農水省OBは「週刊誌報道で消費者からの苦情電話が急増するなど一気に状況が変わった。売れ残ったのは、日本人が長粒米に不慣れだったこともあるが、輸入米の品質に不安を与えたことが大きい」と振り返る。
タイ米の味に関していえば、当時の日本ではタイ料理は今ほどメジャーでなく、粘り気が少なく特有の香りがあるタイ米をどう食べればいいか分からない人が多かった。新聞やテレビで「タイ米のおいしい食べ方」を盛んに紹介していたが、チャーハンやタイカレーといった料理が多く、味噌汁とおかずといっしょに食べるご飯としては不向きなことも関係したかもしれない。
酸化で古米臭も
今回放出された備蓄米は、日ごろ食べ慣れているうるち米(短粒米)なので、タイ米のように抵抗感を抱く人は少ないだろうが、心配されるのは「古米臭」といわれるにおいだ。古米臭は、コメの表面にある脂質が酸化して発生するアルデヒド類の「ヘキサナール」などの物質が原因で、食べたときに「ぬか臭い」「少し油っぽい」などと感じるにおいのこと。貯蔵期間が長いと、コメの酸化は避けられないだけに、古古米、古古古米では古米臭がするのではないか。
約20年にわたってコメの研究をしてきた新潟大学の三ツ井敏明特任教授は、おいしいコメの香り成分を明らかにするために、24年産と21年産(古古古米)の「新大コシヒカリ(三ツ井特任教授が開発した暑さに強い品種)」の炊飯時の香り成分をガスクロマトグラフ質量分析計で調べたことがある。結果は、明らかな違いが検出されており、21年産は24年産に比べヘキサナールの数値が高く、他の成分の数値からもコメの酸化が進んでいることを示していた。
ただ、24年産、22年産(古古米)、20年産(古古古古米)を食べ比べたところ、20年産でもいやなにおいがすることはなかったという。三ツ井特任教授は「24年産は他とは異なるよい香り、食感、ほのかな上品な甘みが感じられるなど明らかにおいしかった。22年産と20年産は、24年産のようなよい香りはないが、いやなにおいもない。香りに敏感な人だと分かるかもしれないが、私を含め一般的な人では明確な違いを感じるのは難しいでしょう」と話す。
