2025年6月17日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年6月5日

 そこでSNSのX(旧ツイッター)で、「トワイライト・ウォリアーズ」の熱烈なファンの方にも話を聞いたが、「映画の魅力もさることながら柔らかい響きの広東語に興味を持って勉強中」「応援上映に行ったり映画に出てくる叉焼飯(チャーシューファン)を食べにいったり広東語を勉強したりと推し活中」との答えが帰ってきた。

 影響は広東語テキストだけにとどまらない。1997年出版の『大図解九龍城』(岩波書店)、2017年出版の『香港風味:懐かしの西多士(フレンチトースト)』(平凡社)も重版するなど、映画の舞台となった九龍城や香港社会に関する本全体が売上を伸ばしている。東方書店東京店では3月の和書売り上げベストテンのうち上位4作、中国語書籍の上位3作は「トワイライト・ウォリアーズ」関連だ。

 出版業界の中の中国語圏関連書籍という狭い世界ではあるが、お祭り騒ぎが起きている。

リアルなセットとハチャメチャなアクション

 ここまでファンを熱狂させた映画「トワイライト・ウォリアーズ」とはどんな作品なのか。

 サブタイトルにある「九龍城砦」とは、かつて香港に存在したスラム街だ。香港がイギリスに租借された後も、この地域だけは中国・清朝の管轄権が残されたが、結果としてイギリスも中国も管理しない「法の空白地帯」となり、賭博、売買春、ドラッグ取引などの犯罪が横行。改築増築を重ねて迷路のようになった雑居ビル群の中に、難民など多くの人々をひしめき合って住んでいた。この「東洋の魔窟」は犯罪の温床として悪名をとどろかせると同時に、その異形な空間は多くの人々を魅了するものでもあった。

九龍城塞内の映画セット(映画公式Xより)

 この九龍城に難民の陳洛軍(チャン・ロッグワン)が逃げ込んだことから、映画の物語は始まっていく。孤独だった陳は、九龍城砦のボスである龍捲風(ロンギュンフォン)、そして信一(ソンヤッ)、四仔(セイジャイ)、十二少(サップイーシウ)との友情を通じて自らの居場所を得るが、同時に九龍城砦の利権をめぐる争いに巻き込まれていく……というストーリーだ。

 映画を見て何よりも印象的なのが九龍城砦の存在感。かつてのスラムをリアルに再現したセットは、見事の一言に尽きる。アクションは真逆で、漫画的に誇張された派手な動きだが、重厚なセットの力もあって安っぽさを感じさせない。

九龍城を再現したリアルな映画セット(映画公式Xより)

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