イランの現政権にとって、ウラン濃縮は国家のプライドにかかわる問題で、ある種の聖域となっている。また、ウラン濃縮を継続することは、現在、イランがとっているとみられる、核の「寸止め」戦略(核兵器を製造できる能力の取得を目指しつつ、その手前で止める戦略)の核心でもある。
イランのウラン濃縮の地域協力への提案
今回の交渉で、米国がどこまでイランを押し込むことができるのか。イランとしては、近年、イランの代理勢力が各地で弱体化していること、24年10月のイスラエルの攻撃で防空システムが破壊されていること、経済が疲弊し、国民の不満が堆積していることといった弱みを抱えている。
一方、米国の方も、トランプが戦争を避けたい性格と思われること、トランプが関係を重視しているサウジが地域の安定を望んでいることによって手が縛られる。現在行われている交渉の行方を予断することはできないが、合意が成立するとしても、15年のものとさほど大差のないものになる可能性が高いとみられる。たとえそうした結果となっても、トランプは15年のものとは全く異なる、画期的なものと成果を誇ることになるのだろう。
交渉の行方に関わる論点がいくつか報道されている。イランはウラン濃縮を地域協力の枠組みに位置づける新提案をしていると伝えられている。サウジもウラン濃縮に関心を有しており、この行方は興味深い。
最近の報道で、イラン側は交渉次第ではこれまで拒んできた米国人のIAEA査察官を核施設へ受け入れる可能性を示したとのことである。これに関連し、トランプ大統領は、イランとの合意案は「非常に強力で、査察官の立ち入りが可能だ。われわれは望めば何でも持ち出し、破壊することもできる」と述べた由であるが、当然のことながら、米国人のIAEA査察官は米国の立場で業務に当たるのではなく、国際公務員として業務に当たるので、米国が「望めば何でも持ち出し、破壊することもできる」わけではない。

