住民理解促進のため、隊員たちは地域活動に注力している。トライアスロン大会の医療業務や交通整理にボランティアとして参加する他、駐屯地に住民を招待することもある。
「迷彩服を着た隊員や装甲車などの装備品は住民にとってなじみのないもので、戸惑いや不安はあるかもしれない。『自衛隊員とともにいるのが日常』だと思ってもらえるように、住民の声に真摯に耳を傾け、ともに成長していきたい」(比嘉氏)
石垣駐屯地をとりまく
地元住民の期待と不安
宮古島から南西に約130キロ・メートルに位置する石垣島の中心部には、沖縄県最高峰である標高526メートルの於茂登岳が鎮座している。石垣島の水源地として地域の生態系や人々の暮らしを支えてきた。
その麓に、陸上自衛隊石垣駐屯地が開設されたのは23年3月のこと。与那国(16年)、奄美(19年)、宮古島駐屯地に続き、南西シフトの「最後のピース」が埋まった格好だ。現在は八重山警備隊の他、地対艦誘導弾と地対空誘導弾部隊などが配備され、約570人の自衛隊員が駐屯している。
24年8月より八重山警備隊長兼石垣駐屯地司令を務める中村康男氏は、中学3年生時に阪神淡路大震災で被災し、自衛隊員に助けられた経験から、自衛官を志した。中村氏は「南西諸島は海象・気象によっては、沖縄本島や本州からヘリも船も到達できない可能性がある。国防と災害対応は初動が極めて大切であり、石垣島に部隊が存在する意義はある」と述べ、「力による現状変更を許さず、国民を守り抜くという覚悟で職務に当たっている」と話す。
周辺の安全保障環境を鑑み、駐屯地に期待する声もある。八重山漁業協同組合の伊良部幸吉専務理事は「漁業者には、近年中国が台湾周辺で実施している演習に怯えている人がいる。ミサイルが石垣島から南に60キロ・メートルの波照間島近海まで飛んできたという報道もあった。自分の国を自分で守るのは当たり前だと思うし、駐屯地が抑止力として機能してほしい」と述べる。また、箕底用一石垣市議は「台風が直撃し倒木が発生した際に道路を塞いでいた樹木を、要請せずとも自衛隊員が撤去してくれた。国防だけでなく、災害対応でも頼りになる存在だ」と話す。
一方、石垣駐屯地の開設やその後の機能拡張をめぐり、不信感を持つ住民がいることも事実だ。
於茂登岳への建設計画が本格化し始めた18年、周辺4地区の自治会は建設反対を表明した。同年10月には、自衛隊配備の是非を問う住民投票が住民発議で提起され、有権者の約4割、1万4263筆の署名が集まった。だが、石垣市議会は「国防は国の専権事項」などとして住民投票条例案を否決。住民らは「市条例に基づく住民投票請求は市長に実施義務を課す」と市を提訴したが裁判所は訴えを却下。市民全体の意向は今もなお、確認できずにいる。
