署名活動を行った「石垣市住民投票を求める会」は10代後半から20代を中心に結成された。メンバーの宮良麻奈美さんは当初、自衛隊の配備計画に抵抗感はなかったが、於茂登岳への建設が自分たちの理解も追いつかないまま進むことに疑問を持ち、「求める会」に参加した。
「4地区での住民説明会は既成事実づくりのように感じられ、地域住民が透明人間にされているようだった。住民投票はイデオロギーに偏ったものではなく、運動を可視化し、駐屯地配備への賛否双方の意見を交わし合う機会になるはずだったが、民意が無下にされてしまった」(同)
なぜ住民の不満はくすぶり続けるのか。小誌記者が現地を取材して感じた要因は二つある。
防衛省の説明内容
なぜ不信感がつきまとうのか
一つは、防衛省への不信感だ。
前出の宮良氏は「住民説明会では真摯な質疑応答がされていないし、駐屯地開設以降、なし崩し的に機能拡張が進められている。あまりにもやり方が横暴ではないか」と語気を強める。また、防衛省が石垣市に駐屯地の配備を要請した15年当時、八重山防衛協会の事務局長として、駐屯地の建設を後押しした砥板芳行石垣市議も首をかしげる。
「『専守防衛』を前提とした駐屯地開設には賛成だったが、完成してから長射程ミサイルの配備が検討されたり、実施しないと聞いていた日米合同訓練が行われたりと、防衛省がゴールポストを動かし続けていると感じる。22年末に防衛3文書が策定されるなど、戦略環境は変わっているが、当初の目的から逸脱しており、住民に対して筋の通った納得のいく説明がされているとも思えない」
前出の箕底市議も「ハレーションを恐れ、本音の議論を避けているように見える。それでは住民の不安や不信感は募るばかりだ。はっきりと説明してほしい」と話す。
防衛省の中堅幹部は「国防の領域は、政府や防衛省、国民との間に知識のギャップがある。防衛省は軍事機密を理由に『詳細は差し控える』という説明に安住しがちだ。日本に不利になる情報まで開示する必要はないが、もう少し出せる情報はある。住民の納得感を高めるためには、説明内容をブラッシュアップしたり平易にしたりする工夫が必要だ」と内実を明かす。
もう一つは、「島の歴史やそこに暮らす人々に対する理解」だ。
「いのちと暮らしを守るオバーたちの会」会長の山里節子さんは、「政府や防衛省は『抑止力』というが、基地の存在は戦争へのリスクを高めるものだ。戦争経験者として、石垣島への自衛隊配備や拡張は断じて受け入れられない。どれだけ説明されても納得できない」と語気を強める。節子さんは7歳の時に沖縄戦を経験し、激しい空襲や艦砲射撃に見舞われた。戦争を通じて、祖父と母、兄、生後4カ月の妹の4人の家族を亡くしている。
「今の政治家は戦争を体験していない人がほとんどだ。戦争の本当の恐ろしさを認識せず、軍備拡張を進めているように思える。戦後80年守り抜いてきた平和な時代に終止符を打ってはいけない」(同)
