「島のバックグラウンドも理解してほしい」と語るのは前出の宮良さんだ。宮良家は約500年前から石垣島に居住しており「先住民」いう自負があるという。
「小さな島はいつも大国の狭間で押しつぶされそうになり、琉球・沖縄先住民の自己決定権はないがしろにされている。南西諸島を『最前線』にさせない努力は、いつ、誰がしたのか」(同)
また、前出の砥板市議は「『台湾有事は日本有事』という言葉が独り歩きしているが、なぜ中国の〝国内問題〟が日本の有事につながるのか、国会議員やメディアは明瞭な説明をしていない。威勢のいい言葉を発するばかりでは、住民の不安が大きくなるばかりだ。国民の理解以上の国防はできない。南西諸島の住民にも本気で向き合ってほしい」と語る。
これからの時代
日本が持つべき力とは?
近年ではさかんに「台湾有事」という言葉が日本本土の政治家やメディアから発せられるようになった。自戒を込めてだが、政治家やメディアは、南西諸島の住民の声や不安を決して忘れてはならない。その認識を欠いたまま、本土という安全地帯から、日本のために「良かれ」と思って「台湾有事」を叫べば叫ぶほど、島の人たちを不安にさせる現実があるからだ。
だからといって、備えをおろそかにしていいということでは決してない。安全保障とは、国家存続の基盤であるからだ。また、人知を超える地震などの自然災害と異なり、国家間の争いは、努力次第で避けることができるものであり、「制御可能なリスク」でもある。相互の「深い理解」と「信頼」に基づく日米関係、同盟関係を基軸にしながら、日本にとって重要な隣国・中国と、そして周辺諸国と日頃から良好な関係の維持・発展が欠かせない。
異文化コミュニケーション論が専門の明治大学政治経済学部教授の海野素央氏は「有事を防ぐためには、軍事力というハードパワーと、平和の価値観を共有するソフトパワーを融合させた『スマートパワー』を賢く使う必要がある。日本はソフトが弱くスマートパワーになっていない。それを実現する外交努力はもちろん、政府(首相)が『弱い』立場の地域住民の意見にも傾聴・感情移入し、『よき理解者』だと思ってもらうことも重要だ。そうすることで抑止力はもっと高められる」と指摘する。
時代の荒波に揉まれる今、日本が持つべきは非戦のための〝高度な力〟だといえるのではないか。
