2025年12月6日(土)

終わらない戦争・前編沖縄

2025年6月20日

 「島のバックグラウンドも理解してほしい」と語るのは前出の宮良さんだ。宮良家は約500年前から石垣島に居住しており「先住民」いう自負があるという。

 「小さな島はいつも大国の狭間で押しつぶされそうになり、琉球・沖縄先住民の自己決定権はないがしろにされている。南西諸島を『最前線』にさせない努力は、いつ、誰がしたのか」(同)

 また、前出の砥板市議は「『台湾有事は日本有事』という言葉が独り歩きしているが、なぜ中国の〝国内問題〟が日本の有事につながるのか、国会議員やメディアは明瞭な説明をしていない。威勢のいい言葉を発するばかりでは、住民の不安が大きくなるばかりだ。国民の理解以上の国防はできない。南西諸島の住民にも本気で向き合ってほしい」と語る。

これからの時代
日本が持つべき力とは?

 近年ではさかんに「台湾有事」という言葉が日本本土の政治家やメディアから発せられるようになった。自戒を込めてだが、政治家やメディアは、南西諸島の住民の声や不安を決して忘れてはならない。その認識を欠いたまま、本土という安全地帯から、日本のために「良かれ」と思って「台湾有事」を叫べば叫ぶほど、島の人たちを不安にさせる現実があるからだ。

 だからといって、備えをおろそかにしていいということでは決してない。安全保障とは、国家存続の基盤であるからだ。また、人知を超える地震などの自然災害と異なり、国家間の争いは、努力次第で避けることができるものであり、「制御可能なリスク」でもある。相互の「深い理解」と「信頼」に基づく日米関係、同盟関係を基軸にしながら、日本にとって重要な隣国・中国と、そして周辺諸国と日頃から良好な関係の維持・発展が欠かせない。

 異文化コミュニケーション論が専門の明治大学政治経済学部教授の海野素央氏は「有事を防ぐためには、軍事力というハードパワーと、平和の価値観を共有するソフトパワーを融合させた『スマートパワー』を賢く使う必要がある。日本はソフトが弱くスマートパワーになっていない。それを実現する外交努力はもちろん、政府(首相)が『弱い』立場の地域住民の意見にも傾聴・感情移入し、『よき理解者』だと思ってもらうことも重要だ。そうすることで抑止力はもっと高められる」と指摘する。

 時代の荒波に揉まれる今、日本が持つべきは非戦のための〝高度な力〟だといえるのではないか。

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Wedge 2025年7月号より
終わらない戦争 沖縄が問うこの国のかたち
終わらない戦争 沖縄が問うこの国のかたち

かつて、日本は米国、中国と二正面で事を構え、破滅の道へと突き進んだ。 世界では今もなお、「終わらない戦争」が続き、戦間期を彷彿とさせるような不穏な雰囲気や空気感が漂い始めている。あの日本の悲劇はなぜ起こったのか、平時から繰り返し検証し、その教訓を胸に刻み込む必要がある。 だが、多くの日本人は、初等中等教育で修学旅行での平和学習の経験はあっても、「近現代史」を体系的に学ぶ機会は限られている。 かのウィンストン・チャーチルは「過去をさかのぼればさかのぼるほど、遠くの未来が見えるものだ」(『チャーチル名言録』扶桑社、中西輝政監修・監訳)と述べたが、今こそ、現代の諸問題と地続きの「歴史」に学び、この国の未来のあり方を描くことが必要だ。 そこで、小誌では、今号より2号連続で戦後80年特別企画を特集する。前編では、戦後日本の歪みを一身に背負わされてきた「沖縄」をめぐる諸問題を取り上げる。


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