2025年12月5日(金)

革新するASEAN

2025年6月25日

類型III:リストラ・再編型

 類型IIIは企業の戦略転換に起因する事業リストラや、産業セクターの下降トレンドによって発生する業界再編のM&Aである。三井住友ファイナンス&リース(SMFL)によるESR GroupのAravest Pte Ltd(旧ARA Private Funds事業)の買収は、買い手と売り手の明確な戦略的転換点を示しているこの類型の典型案件である。ESR Groupは、2022年のARA Asset Management買収後、ニューエコノミー分野(ロジスティクス、データセンター、ライフサイエンスなど)に特化する戦略を明確に打ち出した。

 これに伴い、従来のオフィスやリテールといった「トラディショナル」な不動産アセットマネジメント事業をノンコアと位置づけ、その売却を進めることが必須であった。Aravest Pte Ltdの売却は、この事業選択と集中を象徴する最初の大型案件であり、この実現により、ESRはより高成長が見込まれるニューエコノミー分野へ経営資源を集中させることが可能になったのである。

 一方SMFLは、アジア太平洋地域における不動産アセットマネジメント事業の強化を強く志向していた。Aravest Pte Ltdが運用する約1.4兆円規模の私募ファンド(オフィス、リテール等)を取得することで、SMFLは同地域での運用資産(AUM)を飛躍的に拡大し、既存の不動産関連事業とのシナジーを通じて収益基盤の多様化と強化を図れる契機となったのである。本案件は、売り手の集中戦略と買い手の成長戦略が見事に合致した結果であり、双方にとってWin-Winの関係を築いた事例と言えるのである。

類型IV:マネタイズニーズ型

 さてASEANにおいては、財閥企業とそのオーナーファミリーがビジネスに非常に大きな影響力を持ち、またプライベート・エクイティ(PE)による投資活動も盛んである。最後の類型IVは、事業のオーナーやPEのマネタイズに起因して発生するものであり、MUFG銀行によるタイのアユタヤ銀行買収はその典型例と言える。

 当時の主要株主であったGEキャピタルは、グローバルでの金融事業からの大規模撤退を進めており、迅速かつ好条件でのアユタヤ銀行の株式売却を望んでいた。一方、MUFGは国内市場の成熟化を背景に、成長著しいアジア地域でのリテール金融事業の本格展開を最重要戦略としていた。経済成長が見込まれるタイにおいて、アユタヤ銀行という既存の強力な顧客基盤とブランド力を持つ金融機関を買収することは、MUFGのアジア戦略における「ハブ」を確立し、非資源分野を強化する上で不可欠という判断なされ、大型買収が実現したのである。

 さらにはアユタヤ銀行の創業家であるラッタナラック家も、GEの売却に合わせ、保有株式の一部をマネタイズした。しかし、彼らは単なる売り手にとどまらず、買収後も約25%の株式を保持し、MUFGとの共同経営に合意している。これは、ファミリーにとって資産の一部を現金化しつつ、長年築き上げた銀行のブランドと事業を大手グローバル銀行の傘下でさらに成長させる、という合理的選択であった。

 MUFGにとっては、ファミリーの継続的な参画が、タイ市場での信頼確保、規制当局の承認、そしてスムーズな経営統合に不可欠という背景もあった。このように、GEの売却戦略、MUFGの成長戦略、そしてラッタナラック家の資産管理・事業継続の思惑が三位一体となり、この大型買収が成立したのである。


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