2025年12月5日(金)

革新するASEAN

2025年6月25日

インダストリー理解を基盤にした戦略的接近

 このように4類型のそれぞれのケースに共通なことは、日系企業側に「かくありたい」というゴールイメージがあり、それを満たす相手との間でDealが成立していることである。我々の目的は、逆指名したターゲットとの間にM&Aを発生させることであるが、その最初のステップとして、ターゲットとするセクターに存在するプレーヤーを把握し、彼らが属するセクターを取り巻くマクロ環境、例えば人口動態、GDP予測、政治の安定性や当該国の成長ビジョン等、を理解するところから分析を始める必要がある。その上で重要なのは、当該セクターの競争環境の理解と、そこに所属するプレーヤー達から“求められているものは何か”を把握することである。

 下の図は様々な競争環境を簡略的に示したイメージ図である。左の「A:一強他弱」とはASEANでよくみられる構図であるが、財閥系・政府系のジャイアント企業がドミナントポジションを牛耳り、規模の小さなフォロワーが存在している状態である。規模の大きな会社はさらなる成長、例えば地理的拡大や事業の多角化、を望むものであり、正に類型Iのケースで示したCPグループのような相手のニーズをつかんでいくことが重要となる。 

 ASEAN各国で勃興しているフィンテック企業に目を向けると、既存銀行というジャイアントに対して無数の新興企業が戦いを挑んでいる状況であり、競争環境「A」の一部と言える。そのような状況では、類型IIが示す典型的な資金ニーズ型のM&Aが発生する地合いがある。

 また、みずほ銀行が提携したKredivoやMomoなどはフィンテック業界の中では既に大手であり、上の図で言えば競争環境「A」を抜け出して、真ん中の「B:寡占状態の中の過当競争」に突入しているともいえる。そのような環境下、みずほのような大手との提携は、ライバルに先んじて一歩抜け出る大きな契機となっているであろう。

 「B」に移行できない企業にはリストラニーズが発生し、再編をも促していくかもしれない。図の右端の「C:常態化した低成長」とは企業もしくはセクター全体が成長のモメンタムを失い停滞している状況である。赤字資金が発生し、バランスシートのスリム化や他社との統合、あるいはExitなどのドラスティックな処方が必要になる。

 このようにセクターの競合環境によって、当事者たちには様々なニーズが発生する。それは成長のために資金や顧客基盤、テクノロジーであろうし、場合によってはリストラ資金やアセットライトのような構造改革である。つまりここで重要なのは、逆指名をするに際し、「市場に存在する(あるいは今後現れる)本質的な課題やトレンドを読み解いた上で、最適なソリューションとともにM&A提案をしていくという発想である。

 ここに”Take”の対になる”Give”が登場してくるのである。即ち、”Take”したい先を逆指名し、その先が求めるものを”Give”することでM&A発生の蓋然性を高めるという、まさにこれがDeal Intelligenceの要諦なのである。ターゲットへのアプローチに際しては、我々のような第三者的立場のアドバイザリー会社を介した「ソフトアプローチ」が有効だ。先方の警戒心を和らげつつ関係構築を進めることが重要なのは言うまでもない。


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