2025年12月5日(金)

21世紀の安全保障論

2025年7月7日

 一方の「山東」は、沖縄・先島諸島の南東海上で艦載機の発着艦を繰り返すと同時に、警戒監視する海上自衛隊のP3C哨戒機に対し、ミサイルを搭載した戦闘機を発進させ、45メートルという至近距離まで異常接近するなど常軌を逸した威嚇行動を繰り返した。

 自衛隊幹部によると、空母「山東」が所属する中国南海艦隊は、南シナ海などでも頻繁に米軍やオーストラリア軍などの航空機に異常接近を繰り返しており、「その非道ぶりをNATO諸国と共有し、中国に警告を発することが可能であった」と指摘する。

 結局、石破首相が参加しなかったNATO首脳会議では、中国問題は討議されず、首脳宣言も、これまで「体制上の挑戦」などと警戒を発してきた中国には一切触れない内容に終わってしまった。増大する中国の脅威と向き合う日本にとって、中国の威嚇や示威行動の深刻さをNATO諸国と共有する機会を逸した責任は大だと言わざるを得ない。

繰り返される石破氏への失望

 自衛隊幹部が石破氏に失望するのは、今回が初めてではない。2003年末からはじまったイラク復興支援活動では、「戦地派兵」や「違憲」など一部の有識者やメディアが、派遣に抗議し、反対する中で自衛隊は出発していった。当時、石破氏は防衛庁長官で、過酷な任務環境にある自衛隊の部隊を、現地に行って激励してほしいとの声が高まっていた。米英など各国の高官らは自国軍の活動を視察し、兵士らを勇気づけていたからだ。

 筆者も当時、防衛庁で取材し、石破氏に直接、現地に行ってほしいと頼んだことを覚えているが、石破氏は最後まで首を縦に振らなかった。石破氏の後に防衛庁長官となった大野功統氏と額賀福志郎氏は、就任直後にイラクを電撃訪問し、部隊を激励している。

 NATO首脳会議に行かなかった石破氏の対応について、自衛隊幹部のOBは、「イラクの記憶がよみがえる。またかという気持ちだ」と言う。

自衛隊から栄誉礼を受ける石破首相(中央)。自衛隊員らは実際はどのような思いを抱いているのか(首相官邸HPより)

 6月30日、防衛省では自衛隊指揮官幹部会同が開かれ、石破首相は自衛隊最高指揮官として訓示したが、耳を疑ったのはその内容だ。長官時代のイラク派遣を例に、「『長官行ってきます』と言って若い隊員たちが飛び立っていきました。私は終生忘れることはありません」などと語ったのだ。そうであるならば、なぜあの時、危険があっても現地に行って激励する気にならなかったのか、不思議でならない。

「私が諸官の先頭に立ち、中谷大臣とともに、日本を、日本国民を守り抜いてまいる覚悟であります」--訓示はそう締めくくられたが、居並ぶ幹部自衛官の脳裏に、首相の言葉はどう響いたのだろうか。

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