一般的な企業の取り組みとしては、ストレス疾患を早期に発見し医者につなげることが主眼になっています。それが間もなく法制化されようとしています。企業は本来、ストレス疾患の発生を個人の問題としてのみとらえるのではなく、組織全体の生産性を考え、一部の人間にストレスの偏りが生じることのない方策をとるべきです。それにより持続可能な活力を保つことができるというのがオーソドックスな考え方です。医者の役割は大きいのですが、医者まかせだけだと根本的な問題は解決しないと思います。
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現実的には企業の現場で職場の管理者に期待する部分が大きいと考えます。まず求められるのは、スピードと変化の中でのマネジメント能力と人間的なセンスです。人を統制する力があっても部下を納得させるだけの人望がないと部下の気持ちは折れてしまいます。人は誰でもプレッシャーをかけられるだけでは力を出し切れません。
自分が必要とされる実感もなく、苦しいだけで意味の見いだせない仕事をしていれば、虚しさと孤立感の中でメンタル不全に陥るのは当然のことでしょう。部下がどんな気持ちで働いているのか、職場の心理的環境を見直しながら働き甲斐のある環境を作ることが一番のメンタルヘルス対策だと思います。
現実にはどの企業もこうした問題意識を持つ余裕がないのも事実です。しかし、これまで働く人のストレスを必要悪と考えた企業で、いつくもの不祥事や人為的事故を見てきました。取り返しのつかないことを回避するには、まず経営者自らが、人が生き生きと働く組織を作るという意思を示さねばなりません。その強固な意志を示したとき、従業員はそのトップに信頼を置き、健康に気遣いながら働くことが可能になるのではないでしょうか。
自殺3万人突破で変わった企業の取り組み
―― 企業のメンタル意識の変化をどのようにみていますか。
根本:メンタルヘルス対策には二つの流れがあり、健康な職場を作り極力うつ病患者をなくそうとするいわゆる0次予防的な流れと、1次予防、2次予防的な病気の予防保全を念頭に早期発見早期治療へつなぐ流れです。1998年に自殺者が3万人を突破したとき、国はメンタルヘルス問題に本腰を入れ始めましたが、この頃から医療的側面の強い流れが加速し、0次予防的な対応は勢いをなくしていきました。企業の切迫した事情があったにせよ、医療中心のメンタルヘルス対策が、組織が本来持つべきレジリエンシー(復元力)を奪った側面は否めません。