かつてのメンタルヘルスは、職場風土、労務管理の問題として、人事、安全衛生、労働組合、健保などが渾然一体となり、経営問題として組織ぐるみに展開されていました。ところが景気低迷が続き、人事が日本企業のお家芸ともいえる労務管理に手が回らなくなったことでメンタルヘルス対策のアウトソーシングが起こり、人事と現場との距離ができてしまった。
こうしてメンタルヘルス問題は、治療を目的とした個別対応の色彩がますます強くなってきたのです。もちろん病気になった方へのケアは大切ですが、もう一方での、職場の中でのOJTやストレスコントロールによって現場を強くするという発想が弱くなり、ストレス耐性の弱い従業員が増えてきているのも事実です。
組織の活力の源泉を現場の「人」に求め、目の前で起こるメンタルヘルスの問題を経営課題と位置づける企業は残念ながら減り続けているように見えます。
現状は病気か否かの二分法しかない
―― 大企業と中小企業とのメンタルヘルス対策の意識差について、どのような見方をされていますか。
根本:生産性本部の調査では、多くの企業が3次予防(職場復帰支援)は成功していると回答しています。しかし、実際に聞いてみると、何が本当の予防か確信が持てていません。大企業は取り組みに自信を深めていますが、中小企業はそこまでいっていない。中小企業は労働移動が大企業よりも大きいために、会社を辞めることで問題が内在化しない面もあります。
休職が問題になるのは、むしろ労働条件の良い大企業のように思えます。病気になっても辞めなくてすむような施策が施されているからです。そうなると働くことよりもそこに所属することに価値を感じ、休職を繰り返すというのがこれまでの流れでした。従業員を大切にするとはどういうことか、メンタルヘルスの取り組みの目的と方法を吟味しないといけないと思います。
―― 定期的にメンタル調査を実施していますが、企業の傾向をどのように分析されていますか。
根本:職場風土と従業員のメンタルヘルスに関心を持って調査をしています。多くの企業で、自分の職場の風土を「個人の能力」と答える人は4割、「チームワーク」は2割います。前者と答えた人のメンタルは悪く、後者と答えた人のメンタルは良いという傾向が、どの企業でも見ることができます。このことは従業員を競わせるということの是非が問われているのではないか。多様な人間が、それぞれの個性と能力を持ち合い総力戦で他社と競う、というほうが組織として健全な姿に思えます。