2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年7月18日

 同時に技術の保存維持にも役立つ。たとえば奈良時代に鉋(かんな)はなく、ヤリガンナと呼ばれる刃物で木材の表面を削った。削られた木肌は鉋の場合とまったく違う。

平城宮の大極殿建設では古代のヤリガンナが使われた

 それを再現するにはヤリガンナを扱える職人が必要だ。しかしヤリガンナによる木材加工の現場がなければ職人が育たない。そこに史跡の復元事業は重要な役割を果たす。

 同じことは各種の工芸品にも言える。首里城や平城宮では、建物だけでなく当時の家具や彫刻品、そして日常用具などが再現される。

 それらを製作する職人の技の伝承も必要となる。すでに廃れて消えつつあった工芸も、復元事業によって技術が蘇るのだ。

 史跡ではないが、20年に一度本殿を建て直す伊勢神宮の式年遷宮では、新調されるのは本殿だけでなく御装束や神宝などもある。祭祀に必要な武具、楽器、文具などを20年に一度求められることで製作技術が引き継がれるのだ。

現代社会に必要な配慮

 ただ「当時と同じ」であればよいのではない。現代の建築法規とも向き合わなければならない。耐火基準や耐震基準をクリアしなければ、違法建築になってしまう。何より災害で崩壊しやすい。

 そこで土台をコンクリートにし、免震構造の装置を取り付けることも行われる。また見えない部分を金具や構造用合板で補強することもある。

 首里城復元でも、防火対策に力を入れて現代の消火設備が設けられる予定だ。また天守閣などの復元時には、高齢者や障害者向けにエレベーターなどの設備を設けるべきかどうかも議論になる。

 さらに現代では、環境や住民感情についても配慮することが求められる。

 首里城では正殿の一部の丸太梁には、過去の記録からオキナワウラジロガシを使うことになった。しかし長さ7メートル以上、直径40~50メートル級の大木が必要だ。そこで石垣島の屋良部岳山麓にあった大木を5本伐採しようとしたが、住民から反対の声が上がった。

 屋良部岳の森は、住民にとって「聖地」だったからだ。しかも石垣島を含む八重山諸島は、琉球王朝に征服され、過酷な人頭税や強制移住を課せられた歴史がある。そのため住民は琉球王朝に複雑な感情を持つ。手放しで「首里城のため」とは思えなかった。結果的に伐採は中止となり、結局、沖縄本島の国頭村で見つけた木を使ったようである。


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