2025年12月5日(金)

古希バックパッカー海外放浪記

2025年7月20日

どこでも聞かされた忠告「持ち物に気を付けろ」、痛恨のケアレスミス

サンチアゴの「物売り通り」。バスターミナルから数百メートルは露店・売 店が密集しており写真撮影すると因縁を付けられそうなので中央駅横の露店が比較的ま ばらな場所で

 3月20日。アルゼンチンのワインの名産地メンドーサ市内の閑静な住宅地。スペイン風サンドイッチ(bocadillo)を買おうと、パン屋の店先に重いバックパックを置いて数メートル先の店のカウンターに行ったら女将が慌てて「バッグを離しちゃダメ。ベネズエラ人が狙っているから」と注意された。

 3月26日。バルパライソの肉屋で買い物をして会計するときにナップサックを置いてほんの2メートルほど離れたキャッシャーに行ったら、やはり店のオヤジに「バッグを離したらベネズエラ人に持っていかれるぞ」と叱られた。

 このような注意・警告・お叱りは善良なアルゼンチン・チリ市民から、何度頂戴したか分からない。さすがに旅の後半になると持ち物を手放さないようになった。ところが旅の最後の最後のブエノスアイレス空港のチェックインカウンター前でバッグパックからパスポートを取り出す際に慌てていたのか、何気なくスマホを脇にあった棚に置いてしまった。スマホは特に換金性が高いので、ひったくられるリスクがあると耳にタコができるほど聞いていたのだが、案の定、気が付いた時にはスマホは消えていた。

ブラジル、コロンビアのベネズエラ難民は?

 3月12日。プエルトモントのホステルでブラジルのマナウスの北東の町から旅行にきたIT企業を経営する50歳の女性と会った。ブラジル北部は人口も少なく、働き口が少ないのでベネズエラ人はほとんどいないという。ブラジルでもサンパウロやリオデジャネイロなど大都市にベネズエラ難民がいるという。

 ブラジルは大国のわりにはベネズエラ難民が少なく二十数万人程度なので市民生活への影響が余りないのかもしれない。

 4月16日。コロンビア人の石油掘削の熟練労働者フェルナンドによると、300万人ものベネズエラ人が住み着いているコロンビアでは、凶悪犯罪が急増している。特に拳銃による殺人が顕著だと。現在のコロンビアは従来からの麻薬マフィアと、ベネズエラ人マフィアに支配されていると嘆いた。

 そのためフェルナンドは生活拠点をペルーに移した。上の子ども2人は学校を出てコロンビアで働いているが、奥さんはペルー人なので現在は下の子ども3人と奥さんとリマで暮らしているという。

ベネズエラ難民の大多数は善良な人々なのか

 筆者は滞在中にアルゼンチンもチリも治安悪化が社会問題となっていると感じた。特にチリはボリッチ政権の無策のために、治安悪化が最重要政治問題となっていた。筆者には両国の人々が治安悪化の原因をベネズエラ難民であると安易かつ感情的に結び付けているようにも思えた。

 本稿第6回(『ラテン世界を席捲する“スシ”、寿司ネタの王様はやはり「あの食材」だった!地球の裏側にある日本食堂の経営戦略』)にて紹介した“ベネズエラ人が17人も働いている繁盛スシ・レストラン”のように勤勉に働いている若者も大勢いるのではないか。

 3月28日。チリ南端のフィヨルドの入り江の港町プエルト・ナタレスのホステルで同宿したブエノスアイレス在住の水道技術者のエリオの指摘は正鵠を得ていた。「ベネズエラ人の流入を快く思わないアルゼンチン人は多いが、ベネズエラ人がアルゼンチン人の嫌う3K職場で低賃金に甘んじて働いている。彼らがアルゼンチン経済を支えていることを評価するべきではないか」とエリオは指摘した。

 3月24日。ブエノスアイレス近郊出身の若手エリート警察官のマウロは「アルゼンチンの警察は、ベネズエラ人に対してステレオタイプな差別はしない。アルゼンチン警察は法律を守って仕事をしているベネズエラ人に対しては、アルゼンチン市民と同様に接している。それが我々警察官のプライドなのだ」と正論を堂々と語った。

 彼らの冷静で客観的な見解は、良識のある善良な市民の声を代表しているように思えた。そうしたサイレント・マジョリティーが社会に存在しているからこそ、770万人という膨大な数のベネズエラ経済難民は、異郷の地で生きてゆけるのではないだろうか。そう信じたい。

以上 次回に続く

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