2025年12月5日(金)

古希バックパッカー海外放浪記

2025年7月20日

(2025.2.9~5.9 89日間 総費用66万7千円〈航空券含む〉)

ブエノスアイレスでのベネズエラ難民との邂逅

国会議事堂の中の霊廟。アルゼンチンの偉人が祀られているらしいが碑文のスペイン語が難解で不詳

 2月13日。ブエノスアイレスの国会議事堂見学のガイド付きツアーに参加した。30人くらいの観光客の大半は外国人だ。ガイドがどこの国から来たかと尋ねるとチリ、コロンビア、ブラジルなど近隣ラテン諸国が多かった。最後に6人くらいの男女のグループがベネズエラと答えた。

 彼らは外見上他のラテン諸国の観光客と見分けがつかなかった。破綻国家ベネズエラから来たということは普通の観光客ではない。経済的に困窮して故郷を捨ててアルゼンチンに来たいわゆる経済難民であろう。経済難民というと汚れた服を着て大きな荷物を背負って歩いているというイメージが強かったので、6人のベネズエラ人を見た時に何か拍子抜けした。しかし、よくよく考えると何年か前に故郷を捨てて着の身着のままで国境を越えた難民も異郷に定着して生活の糧が得られれば多少は落ち着いた暮らしができるだろう。彼ら6人はそうした幸運に恵まれ勤勉に働いてきた人たちなのだろうか。

国会議事堂の議員の控室で説明するガイドと観光客

2人の独裁者により二十数年間で国家が破綻したベネズエラ

 日本外務省のウェブサイトでベネズエラを検索すると2024年の人口2646万人、1人当たりGDPは3870ドル、失業率は不明とある。数字の出典は国際通貨基金の公表データとの注釈。ベネズエラ国家には信頼できる統計数字が存在しないようだ。そして累計780万人の国民が近隣ラテン諸国(コロンビア、ペルー、チリなど)に流出したとある。

 IMFのデータによるとベネズエラの2018年の失業率は36%でその後はデータがない。ちなみに悪名高いウーゴ・チャベスが大統領に就任する前の2000年の失業率は14%である。ウーゴ・チャベス(在任2002年~2013年)、ニコラス・マドゥ―ロ(2013年~現在)の2人の独裁者大統領により、わずか二十数年の間に潤沢な石油輸出収入により中南米でトップクラスの豊かな国であったベネズエラが国家として破綻したのだ。

桁違いのベネズエラ経済難民、770万人ってホント?

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によるとベネズエラ難民は2024年時点で770万人。難民の居住国はコロンビア290万人、ペルー100万人、エクラドル47万人、チリ44万人となっている。アルゼンチンは40万人程度らしい。とにかくとんでもない数字である。

 日本では川口市周辺のクルド人が2500人に増加したと大騒ぎになっているが人口5200万人のコロンビアに300万人近いベネズエラ難民が押し寄せているというのだ。筆者にはどんな状況なのか想像もつかない。

ベネズエラ人は治安悪化の根源なのか、チリのベネズエラ人

プエルトモントのホステルの女将エリー。若いころにダメ男の旦那と別れ1人で3人の子供を育てた苦労人。なかなかの論客で保守派である

 3月9日。チリ南部の港湾都市でパタゴニアの観光拠点であるプエルトモントのホステルの女将49歳のエリーと、ゲストのチリ北部から来たスポーツトレーナー氏の2人と歓談。治安問題の話になったら2人は挙ってベネズエラ難民を批判した。2人はチリには約50万人のベネズエラ難民がいるが彼らにより治安が悪化して社会の不安要因となっていると主張。

 エリーによると、ホステルの対面にある空き地がベネズエラ人のフードデリバリー配達員の溜り場となっていて多い時で十数人が騒いでおり近隣の住民は恐いので夜間は遠回りして帰宅するという。

 それゆえチリ国内では『ベネズエラ人は国に帰れ』(Venezuelan go home)という声が日々大きくなっているとのこと。

 3月13日。チリの人気番組である朝のニュースショーでは、前日夕刻サンチアゴ市内でベネズエラの若者がパトロール中の警官と揉めたことをきっかけに、大勢のベネズエラ人が加勢に入り暴動に発展して、駆けつけた機動隊と衝突した事件を報じていた。29人のベネズエラ人が拘束される騒動だった。

 TVの人気コメンテーターは顔をしかめて、視聴者に危険な通りを歩かないように注意喚起していた。一緒にTVを見ていた女将のエリーによるとコメンテーターの発言内容はベネズエラ人が沢山いるような場所は危険であると暗に示唆しているとのことだった。

首都サンチアゴの“物売り通り”で寝起きする人々

 3月16日。プエルトモントから夜行バスで12時間、日曜日の朝サンチアゴのバスターミナルに到着。バスターミナルからホステルまで10キロの距離だ。公共交通のパスを持っていないので荷物を持って歩いた。ターミナルから“解放者通り”(Avenida Libertador)という大通りに出て驚いた。歩道の両側に“お粗末な露店”がサンチアゴ中央駅まで延々500メートル以上も並んでいる。聞くと全員ベネズエラ人であるという。老若男女様々な人々が雑貨類、煙草、飲み物、食べ物などを売っている。道端で寝ている人間も大勢いる。彼らはこの付近で寝起きして物売りをして糊口を凌いでいるのだ。

 露店というが段ボールの箱の上に品物を載せたり、スーパーマーケットの買い物カートに売り物を載せたり、あるいは地べたに新聞紙を敷いているだけというような代物である。

 ホステルに到着してチェックインの手続きが終わると、マネージャーから「サンチアゴはベネズエラ人が多いので治安が悪い。夜間1人での外出は危険なので絶対に外出しないように」と厳命された。


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