日本国内における反米運動や中立主義の動きは相当な熱量を持っており、米政府も扱いを間違えると、日本が北京政府に接近したり、そうでなくとも中立路線をとりかねないと危惧していた。そのため貿易摩擦においても、日本をぎりぎりまで追い詰めることはなかったのである。
そうした中、対米貿易で大きく利益を上げた日本が、米国の地所や企業を買い漁るのを若きビジネスマンであったトランプは目の当たりにしている。自動車をはじめとする多くの日本製品を米国内で販売させてやり、大儲けさせてやっているにも関わらず、日本人は「感謝」がないというのが彼流の考え方である。
「気前のよくない」米国に慣れないといけない
日本にとって困ったことに、もはや冷戦構造は存在しない。また、バブル期に存在した日本脅威論のような日本の力に対する畏怖の念も存在しない。日本は足元を見られる一方である。
今回の関税交渉でも、欧州連合(EU)や韓国が米側の望むような大きな数字を出さないため、日本がうまく使われた感がある。日本に5500億ドルという途方もない数字を出させて、「日本はこれだけ出すと言っているぞ」と示すことで、EUなどとの交渉を思い通りに進める材料にしたのである。
このままの関税状況や米国の内向きが続けば、モノやカネが以前のように世界を巡ることがなくなり、経済が行き詰まるかもしれない。世界経済の停滞は前回の世界大戦へとつながったが、今回はどうなるだろうか。
少なくとも日本は、米国市場に自動車をはじめとする大量の工業製品を売って、豊かな生活を送るという、これまでの様々な幸運が重なって得られていた状況から脱却して、戦後80年経って立ち現れた「気前のよくない」米国にこれから慣れなければならないのかもしれない。
