2025年12月5日(金)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2025年8月12日

権威ある研究レビューの見解

 医療・保健分野で信頼性の高いエビデンスの提供を目的とする国際的非営利組織「コクラン」が23年に発表したマスクの効果に関する「コクランレビュー」は、この科学的な混乱を象徴するものであった。レビューの結論は、「マスクを着用しても、感染をほとんど、あるいはまったく防がない」という衝撃的なものであった。

 しかし、多くの科学者がこの結論を批判した。なぜなら、レビューが対象とした研究の多くは、「マスクを正しく着用したグループ」と「着用しなかったグループ」を比較したものではなく、「マスクを配布して着用を推奨したグループ」と「何もしなかったグループ」を比較したものだったからである。そして、「着用を推奨したグループ」では、実際にマスクを常に正しく着用していた人の割合が低いという問題があった。

 そのため、「両グループ間に差がない」という結論は、マスク自体の無効性を示すのではなく、「単にマスクを配布・推奨するだけでは、集団レベルでの感染予防効果は期待できない」ことを示唆しているに過ぎない、と批判されたのである。

結局、マスクの効果はあるのか?

 では、最終的にどう考えればよいのであろうか。

 感染を確実に防ぐには、N95のような高性能マスクを、隙間なく、常に着用し続ける必要がある。医療従事者は、この厳密な使用法で自らの感染を防いでいる。しかし、一般の我々はどのように使用しているのであろうか。

 N95を着用している人は稀で、ほとんどがサージカルマスクか布マスクである。しかも、「鼻出しマスク」や「あごマスク」、そして食事の時には外さざるを得ないなど、常に正しく着用しているとは言えない状況が頻繁に見られる。

 つまり、コクランレビューの結果は、このような「理想的ではない、実生活におけるマスク着用」の状況を反映したものであり、そのような状況下では、「マスクの感染予防効果は極めて限定的だ」ということを示しているのである。このことは、おそらく世界で最も厳格にマスク着用を続けた日本でさえ、欧米諸国とほぼ同様に、感染の大きな波に繰り返し襲われた経験からも裏付けられる。

 結論として、高性能マスクを常に正しく着用すれば、感染予防効果は期待できる。しかし、実生活でマスクを「時々、あるいは不完全に」着用している状況では、その効果は極めて限定的になる。

 ただし、これは空気感染する新型コロナウイルスの場合である。咳やくしゃみの飛沫で感染する通常の風邪では、症状のある人が布マスクやサージカルマスクを着用することで、周囲への飛沫の拡散をかなり防ぐ効果は期待できるであろう。


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