戦争における利益とは
西欧列強が植民地から得た利益は、金銀の強奪、金やダイヤモンドや石油など鉱山の採掘、胡椒・茶・コーヒーなど熱帯の生産物の獲得などである。日本の場合、朝鮮、台湾、満州から何を得たのだろうか。
コメ、鉄鉱石、質の悪い石炭である(戦後、満州に石油が発見されたがが、戦前の日本には発見できなかった)。コメは国内に流れて米価を下げ、農民の苦境を増したとも言われている。現在の石破茂首相は、アメリカのコメを日本に流通させないのを絶対の国益と主張している。アヘンの密売で利益を得ていた日本人はいたが、日本全体にとって富と言えるような規模ではなかった。
第2次世界大戦で日本がもっとも利益を得る方法は、すべての戦争当事国に武器弾薬食料日用品なんでもを売ることだった。1939年9月にドイツとソ連がポーランドに侵入して第2次世界大戦がはじまった。さらに41年6月にはドイツがソ連に侵入した(日本が参戦したのは41年12月)。ドイツは初戦では破竹の勢いだったから、ドイツに武器を売ったら戦争はすぐに終わってしまう。日本が利益を得る方法は、イギリスとソ連に武器を売ることである。日本は戦勝国側になれた。
戦争している国に売るのは、日本が第1次世界大戦で行ったことである。これで開国維新以来、日露戦争での外国からの借金までをすべて返済し、日本経済は大いに潤った。しかし、これでは財閥、成金、労働者は利益を得ても、定業なき暴漢と不平軍人には利益がない。
これまでの犠牲を手放してはいけない
日本が利益と考えていたのは、「十万の英霊と二十億の国帑」(10万人の戦死者と10億円の戦費)によって得たものを死守しなければならないという主張だった。戦争をしていれば、少なくとも軍隊という組織の拡大とともに軍人は利益を得られる。
中国での戦争の日本軍の戦死者はわずかだった。しかし、この戦争で国民には利益がない。日本の税金で満州国に100万人の軍隊を置いておけば、そこでの商売で利益が得られる日本人がいる。しかし、同じ税金を日本で使えばもっと利益があっただろう。
当時の日本は、鉄道も道路も橋も何もかも不足していた。利益のない戦争を続ける理屈は、ここまで犠牲をもって得たものを手放すことはこれまでに戦死した英霊に申し訳ないというだけである。
しかし、過去の損失はサンクコスト(埋没コスト)であって、将来の行動を考えるためにはコストとは言えない。なぜなら、満州国およびその他の植民地を得るためのコストは、今さら何をしても回収できないからだ。過去のコストを忘れて、これから華北に攻め入るコストと利益を比較して、攻め入るか止めるかを判断しなければならない。
企業で言えば、これまで投資したから今さら止められないという判断は誤りで、これからの投資で得られるだろう利益とこれから投資するコストを比べるべきだということである。筆者は、サンクコストは、経済学でも経営学でももっとも役立つ概念だと思うのだが、日本の経済学ではあまり強調されていない。
