例えば、東大1、2年生に大人気とされている教科書『経済学を味わう』(市村英彦他、日本評論社、2020年)の索引には、サンクコストという言葉は出てこない(『マンキュー経済学 ミクロ編』東洋経済新報社、2019年、には出てくる)。その後も、日本は戦争を止めることができず、ついに1945年8月の敗戦を迎える。
プーチンもはまっているサンクコストの呪縛
日本はサンクコストに呪縛されていたのだが、ロシアのウクライナ侵略もサンクコストに呪縛されているのではないか。プーチンの言い分としては、多大な犠牲を払ってこれまでウクライナを侵略したのに(ロシアの戦死傷は100万人、うち戦死者と行方不明者は25万人、戦費は2000億ドル以上と言われている)、今さら撤退できないというのだろう。
しかし問題は、これからも続けることが合理的かどうかである。戦争を続けるコストと止めることで得られる利益を比べるべきで、これまでの戦死傷者や戦費を考慮すべきではない。
こう言ったら、これまでの人命や戦費を考えずに戦争の利益を考えて利益が得られるなら続けても良いのかという反論があるだろう。確かにそうだが、そもそもウクライナ侵攻に何の利益があったのだろうか。
独裁者は何の利益がなくても国民を犠牲にできることこそを考えるべきなのかもしれない。しかし、独裁者にも限度があるはずだ。
アフガン戦争で、ソ連軍は7.5万人の戦死傷者(うち戦死者は1.5万人)を生み出し、1989年にアフガンから撤退した。筆者は、共産主義はもっとも強固な独裁政権だと思っていたのだが、7.5万人の戦死傷者で戦争を止めた。
プーチンは100万人の戦死傷者を出しても侵略を止めない。プーチンの独裁体制は、共産党独裁体制よりも13倍(100÷7.5)も強力ということになる。
しかも、プーチンは金正恩と親しくなっている。プーチンは、金正恩から、独裁者に国民の犠牲のリミットなどないと学んでいるのかもしれない。
