キーワードは、“没入感”と“直感的”
「たとえば、クリミアの情勢を調べようとしてこの記事を開くと、冒頭でオバマ大統領が演説した動画を見ることができます。そして、記事中に出てくる“Ukraine Crisis in Maps”のリンクを開けば、ウクライナとロシアがそれぞれ、どの時点でどこに軍隊を配置していたのか、時系列に、視覚的に知ることができます。3月3日の時点で、これだけ巨大な艦船が黒海に配置されていたということは、ロシア軍のクリミア編入がずいぶん前から周到に準備されたものであったことが想像できるわけです」(津山氏)
津山氏によると、今年のデジタル業界におけるキーワードは、「“没入感”(immersive)と、“直感的”(intuitive)」だという。NYタイムズ電子版は、動画やインフォグラフィックを用いることで“直感的”に理解を促しながら、もっと知りたいという欲求に答えるかたちで、読者に“没入感”を与えることに成功していると言える。
課金成功のカギは、“読者を知る”こと
「世界最高の質を誇るNYタイムズだからこそ課金に成功した、と言われることがあります。たしかにそれも一理あるのですが、彼らは自らの読者層について綿密な調査を行い、いくらまでなら課金に応じられるかなど、時間をかけて詳細に分析しています。課金で成功するための鍵はまず、“読者を理解する”ことです」(米調査機関Pew Research Centerのシニア・リサーチャー、Jesse Holcomb氏)
NYタイムズは2011年から電子版の課金を開始した。その課金方法は「メーター制」と呼ばれ、月に10本までは記事を無料で閲覧でき、それ以上読みたい場合は課金が求められるという仕組みだ。日本経済新聞の電子版も同じ方式を採用しているが、NYタイムズの場合、検索やソーシャルメディアからの流入は閲覧本数から除外されており、ペイウォール(=課金の壁)が読者数の減少(=広告収入の減少)を招かないよう設計されている。