ドナルド・トランプ大統領がぶら下がり取材で関税の話をする時、ほとんど必ず隣に立っているのが米商務長官のハワード・ラトニック(64歳)である。彼こそまさに大統領の関税政策を主導している人物だ。USスチール買収計画を巡って、安全保障上の懸念を緩和する措置があれば「承認可能だ」と6月の初め、トランプに勧告したのもラトニックであった。
経営者としての成功もトランプの経歴と重なる(WIN MCNAMEE/GETTYIMAGES)
ラトニックは、1961年マンハッタンから約50キロ・メートル東に位置するジェリコで生まれた。アジア系住民も多いジェリコは、高学歴・高収入層が多く住んでおり、教育水準も非常に高いことで知られるが、ラトニックの父親は歴史学の教授、母親は芸術家で、ラトニックは教育熱心なユダヤ系家庭で育った。しかし、高校時代に母親、大学入学直後に父親を亡くすという悲劇を経験し、奨学金を得て83年に経済学の学士号を取得して、ハバフォード大学を卒業した。
卒業後すぐに為替ブローカーとして、キャンター・フィッツジェラルド証券に入社すると、29歳の若さで最高経営責任者(CEO)に就任した。2008年には、電子取引プラットフォームeSpeedを統合し、不動産サービスのニューマーク社を買収するなど、積極的に多角化を進めた。
順風満帆の人生であるかのように見えるが、01年9月11日に起きた同時多発テロ事件で、ワールドトレードセンターの北棟にあったオフィスが破壊され、960人の従業員中658人が犠牲になり、その中にラトニック自身の弟が含まれていた。その悲劇が嚆矢となって、ラトニックは救済基金を設立し、復興に尽力した。
